城西一丁目のマンションに到着してすぐ、僕は狼森の許可を得て風呂場に立てこもった。シャワーコックを捻り熱い飛沫に自分を翳す……冷え切った身体が徐々に芯から温まっていくのがわかった。
「悪かったかな……彼の家なのに」
狼森は僕に上着を貸していた。目が覚めたときにはベンチの上で彼に膝枕をされていたが、狼森がどのぐらいそこにそうしていたかはわからない……彼はシャツ一枚で遊歩道にいたのだ。なのに、僕が率先してシャワーを使っているのは、申し訳ない気がする。浴室へ入る直前、彼は一緒に入り、僕の身体を洗ってやろうと申し出てきた。状況から想像するに、それは性暴力を受けた僕を気遣い、風呂場で倒れたりしては大変だと気遣ってのことだと理解できる……今なら狼森の善意が僕にも理解ができるのだ。だが、自分の身体がどうなっているかと考えると、とてもその申し出は受け入れられなかった。とはいえ、それを了承していれば彼も身体を温められたことであろう。そうなると、一分でも早く浴室を出て、彼と交替するべきだろうとわかっているのだが……。
「つっ……あぁ……」
想像通り、すっかり広がっている肛門に指を差し入れた途端、皮膚を伝い落ちてくる液体……粘り気の少ない白いそれは、恐らく直前まで受け入れていた野良犬のものであろう。精液は指の表面を伝い落ち、ポタポタとタイルに水溜りを作っていった……まだどのぐらいからだの中に他人や獣の体液が残されているのか予想も付かない。
「くっそ……んんっ……あっ、あぁ……」
最初から二本収めていた指の数をさらに増やし、すっかりやわらかくなっている内壁を掻きまわす……次第に公園で起きた出来事……浮浪者達のにやけた顔や、大きく反り返った肉棒、きつすぎる体臭に、獣の激しい息遣い、大量に放出される精液の温かさ……そんな記憶が次から次へと脳裏に蘇って、いつしか必死に肛門をひっ掻きまわしていた。
途端に背後の扉が大きく音を立てる。
「なっ……あ、あの……ええと」
狼森はすっかり着替え、セーターとデニムという寛いだ姿になっていた。整った顔が見慣れた表情を浮かべる……すっと目を細め、口角をニヤリと持ち上げ、僕を嘲笑する顔だ。
「いつまでかかっているのかと思えば、なるほどね……」
「ちがっ……これはだから、か……だそうと……」
掻きだすという言葉が何を連想されるかと咄嗟に考え、言葉を濁らせる。何をとも、間違っても口には出来ない。そこまで言葉に気を使ったところで、自分の格好を見れば、取り繕うことさえばかばかしくなるほど、情けない。
「精液を掻き出そうとして、気持ちよくなり一人でオナニーしていたと……」
「そんな……そ……じゃなくて……あぁうっ」
服が濡れるのも構わず中へ入ってきた狼森は、いきなり僕の右手首……それは相変わらず尻に回していた利き手を突かんで、そのまま思い切り奥へと突きたてた。
「何が違うんです? 指を3本も突っ込んで、チンポをそんなに反り返らせて……ああ、ここも凄いですね。公園で見たときも、目を疑いましたけど、元々大きいのかな……それとも自分でしょっちゅう弄っていたら、こんなに大きくなるんですか? 男なのに、女みたいに大粒でしかも真っ赤だ……いやらしいなあ」
「やだっ……何してっ……んああっ」
手首を捕まれ、肛門を激しく掻き回しながら、空いているほうの乳首をぐりぐりと強く抓られる。もう片方の乳首は、僕がもともと掌で覆いつつ、指の間で転がしていた。その左手の行為に気が付いたらしい狼森が、真似をして胸ごと掌で掴み、それを動かしながら、胸の脂肪をギュウギュウと強く揉み始める。
「へえ……凄いや。こうしてみると雲谷さんの身体ってめちゃくちゃエロいですよね……女みたいなのは乳首だけじゃない。男の癖に、おっぱいが大きくて、柔らかくて、ちゃんと揉めるじゃないですか」
「やあっ……やめてっ、恥ずかしいから……」
「何が恥ずかしいんです……人の家でオナニーしてたくせに、いまさら恥ずかしがることなんてないでしょう……ここもこんなにグチャグチャにしてるくせに。ほら、おっぱい揉まれてもっと気持ちいいんでしょう? こっちもしてあげますよ」
そういうと手首を掴んでいた彼の手は、猛片方の胸に回り、本格的に僕の乳を揉み始めた。背の高い彼の大きな掌が、後ろから僕の胸を大きく掴み、動かすたびに持ち上げられたり押し潰されたりする。その動きに連動して、僕の胸は形を変え、時には、女のような谷間さえ作られた。それを狼森にされているのだと思うと、ますます倒錯的な気分になる。
「ああっ……ああっ……も、もっと……」
「もっと、なんです? 強くしてほしいんですか? 男におっぱい揉まれて気持ちいいなんて、本当に変態ですね。チンポもすっかり立って、先走りが零れてますよ」
言われなくてもわかっていた。乳首が気持ちいいこともさきほど知ったばかりだが、ただでさえ肛門を刺激して気持ちがよくなっていたのに、狼森に激しく胸を揉まれたことで、僕はすぐにでも極めそうになっていたのだ……性感というものは、誰かにされることで、自分でするときと比べ物にならないほどの快感になる。それが好きな相手であれば……。
「ああああっ……!」
頭の中が真っ白になっていた。
「へえ、本当におっぱいでイッちゃいましたね……実は女なんじゃないですか?」
「あっ…ああっ……」
嘲笑るように耳元で言われ、また軽くイく。すさまじい快感に僕は浸っていた。
狼森がようやく胸から手を離す……両方の乳に指のあとが真っ赤になるほど残されていた。乳首もコリコリに硬く立っている。
突然シャワーヘッドを尻に向けられ、全開にされた水飛沫を浴びせられる。
「うわああああああ、やめてぇっ……ひぃいいっ」
強すぎる刺激が何度も強打された尻の皮膚と、開ききった肛門を刺激し、敏感になっている内壁にも容赦なく入り込んでくる。
「ほら、大人しくしてくださいよ……俺だって、あんな連中のモノの中に突っ込むのは、さすがに勘弁してほしいですからね。けど、あなたが自分で後始末するのを待っていたら、いつまでかかるかわかったもんじゃない……何しろ途中で思い出しながらオナニーする変態ですから」
「いやあっ……そんなっ、強い、強すぎるっ……」
「気持ちいいんでしょ? ほら、イッたばかりなのに、また立ててる。ねえ、教えてくださいよ。ここに今まで何人受け入れたんです? まさかあのリョウちゃんが、こんな淫乱女になってるなんて、俺もショックですよ」
「そんなの知らない……っていうか、なんでその名前……」
また昔の愛称で呼ばれた。さっきも彼は僕をそう呼んでいた。それも彼は今、あのリョウちゃん……そう言った。狼森は僕を前から知っている? 彼は何者なのだ……それを知りたいのに、考えたいのに、僕の身体はそれどころではない。彼に詰られている間にも、また肛門を刺激された快感で、はちきれそうになっていた。僕の身体は彼が言うように、淫乱な女のようになっていたのだ。
「知らない……そうですか。いちいち数え切れないほど、男にヤらせまくってるんですね……ああ、違った。男と犬でしたね」
「じ、自分だって……」
「何です?」
「自分だって……あんなとこ……や、やめて…それはだめっ」
不意にシャワーヘッドを尻に押し付けられ、強烈な水流がダイレクトに直腸へと入ってきた。しかも入り口はスリムなタイプのプラスティックの器具で、ピタリとふさがれているので、殆ど隙間がない。……こんなことをされたら大変な惨事になりかねない。腸壁も怪我をするだろうが、いずれ近い将来に訪れるであろう、汚らしいみっともない光景が予測でき、彼の前でそんなことになってしまう自分を想像して、青ざめた。
「ちゃんと言ってくださいよ。俺が何だっていうんです?」
「それ、やめて……だめっ……出ちゃうからっ」
「話を逸らさないで。何か俺に言いたいことがあるんでしょう? 逃げないでちゃんと話してくださいよ。身体は女みたいでも、本当はそんな女々しい性格じゃないはずですよ」
また狼森は、そんなことを言った。まるで昔の僕を知っているかのように……そろそろ腹が痛くなっていた。強い水流を入れられ、直腸や下腹部がぎりぎりまで膨れあがり、悲鳴を上げている……遠のきそうな意識を奮い立たせて、僕は狼森に言った。
「今日、……あんなとこにいたじゃないか」
「あんなとこ?」
「お前は風俗街からあのキャバクラにやってきた……」
「何を言いたいんです?」
狼森の声がグッと低くなる。
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