それから数日後、カレから住所を聞いたというモーベールより、マゼンタ通りの俺の自宅へ1枚の小切手が送られてきた。
思い当たる節がないことと、金額の中途半端さに首を捻り、こちらもカレから電話番号を聞きだして、本人に直接理由を尋ねてみると、それは俺が『スリーズ』で過ごした2泊分の宿泊代金だという。
ますます意味がわからず、さらに追究すると、暫く沈黙が続いた後で電話の向こうにいるモーベールが、漸く白状した。
「ですから・・・車を壊してすいませんでした。修理代はオーナーが既に支払ったと聞いたので、弁償する理由がないでしょう? けれど、そのせいであなたは延泊することになった・・・その代金ですよ。その・・・てっきりあなたがエリファを誘惑したのだと思って・・・。えっ・・・あの人達も、一緒だったんですか・・・、けれど、それはあの人達の勝手でしょう。俺がすまないと思っているのは、あなただけだし、あの人達の代金までは知りませんよ・・・」
生ぬるい熱気につつまれたアパルトマンの部屋で、俺は夏の夕暮れに染まった戸外の雑踏を眺めながら、暫し茫然と受話器の声に耳を傾けていた。
Fin
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