それから3分後、俺は『ジャルダン・スクレ』のテーブル席に着いていた。
俺を食事に誘ったのは、最初に声をかけてきた若い紳士だ。
彼は名をジェイムズ・ケネス・スティーヴンという。
まだ29歳で、職業は弁護士らしいが、そちらは随分と暇らしく、母校のケンブリッジで研究を続ける傍ら、詩を書く日々であるという。
どのような詩を書くのかと質問すると、次回は先日出版したばかりの詩集を贈呈すると約束されたが、隣で苦笑しているキャラハンの反応が気になった。
そのキャラハンであるが、実はホワイトチャペル署で何度か俺と会ったことがあるらしい。
俺の方では皆目記憶になかったために、これには恐縮することしきりであった。
「まったく失礼な話で申し訳ありません」
俺が謝ると、キャラハンは愉快そうに笑った。
「俺がフレッドみたいな、目を引く美形というならともかく、とりたてて印象に残るような容姿でもないから、しかたあるまい。・・・いや、こちらの方で少し興味があったから覚えていただけの話だ。気にすることはない。言葉を交わしたのも、今日が初めてだしね」
フレッドというのは、間違いなくアバラインのことだろう。
さきほどチャンドラーから聞かされた、キャラハンがアバラインの教育係だったという話を俺は思い出していた。
チャンドラーの話では、キャラハンとアバラインの関係は、職務上の上下関係に過ぎないものであり、どちらかというとチャンドラーとの友人関係のほうが親密であるようにさえ感じた。
しかし目の前でアバラインをファースト・ネームで呼ぶキャラハンの言葉からは、もっと親しい印象を受ける。
仮にチャンドラーが、俺についてキャラハンへ否定的な情報をリークしたとしても、それでアバラインが処分されるような心配はなかったのかもしれない。
「興味が合った・・・ね。なるほど、それは実に興味深い発言だ。僕も君には興味があるよ、ジョージ・・・ああ、そう呼んでも構わないかな、巡査部長?」
「はあ・・・べつに構いませんが」
何杯目かのワインを傾けながら、スティーヴンが挑発的な目で確認をした内容に、俺は戸惑いながら了解の意向を伝えた。
挑発的と感じたのは、単純に彼の目元の印象のせいかもしれない。
スティーヴンは、恐らく身長190センチ程もある大柄な青年だ。
濃い栗色の髪はスウィンバーンのように、肩に着くほど長く伸ばして、自然に波打たせてある。
目元はやや上がり気味で、瞳は灰色に近いブルー。
長髪と目元の印象のせいだろうか、彼は『狼』というイメージがピッタリだ。
狐を狩る狼・・・さながらそういう印象が、スティーヴンにはある。
「そうか・・・スウィンバーンだ」
考えを纏めていた俺は、不意にその男のことを思い出していた。
「詩人のスウィンバーンか? 彼がどうかしたのか、ゴドリー?」
キャラハンが俺の大きな独り言に反応をする。
「ええ。俺の見間違えでなければ、ついさきほどここの玄関先で、彼を見かけたんです。おそらく本人だと思うのですが」
俺がキャラハンへ回答すると、スティーヴンが大袈裟な身振りを交え、盛大に溜息を吐いた。
「それは実に残念だ! アルジャーノン・チャールズ・スウィンバーン・・・あの偉大で、魅力的な男が来ていたのなら、ぜひ話したかったというのに・・・」
「随分と評価しているんだな。俺にはどうも詩というものが、理解できない・・・いや、君には申し訳ないんだがね。しかしスウィンバーンはアルコール依存症に陥って死にかけたり、交友関係にあったシメオン・ソロモンが同性愛で逮捕され、そのソロモンから彼自身も同性愛者だったことを示す手紙を暴露されている。ソロモンの行為は卑怯としか言いようがないが、それにしても・・・なんというか、スウィンバーンは刺激的すぎるよ」
キャラハンがそう言って顔を顰めた。
「芸術家とはそういうものでしょう。それにソロモンの件において、彼はまったくの被害者であり、しかも出所してきたソロモンに、スウィンバーンは手を差し伸べもしている。ソロモンがスウィンバーンの手紙を競売にかけた真意は、僕らには知るすべもないけどね・・・。或いは金に困ったソロモンが、生活の足しにしたかったと世に言われている以外の、当時者同士にしかわからない、何かがそこにあったのかもしれない・・・愛の終焉とは、実に悲しいものだから。ねえ、ジョージ? ところでライアン、スウィンバーンの『鞭打ち趣味』については、批判しないのかな」
なぜ途中で俺の名前を差し込んだのか理解できず、何らかの返事をするべきかどうか迷っているうちに、機会を逸してしまった。
キャラハンとスティーヴンの会話が引き続く。
「個人的な性癖の一環だろう。俺がとやかく言うような問題ではない」
「それは有難い。せっかくあなたと知り合えたのに、軽蔑されて、交友関係を断ち切らては悲しいからね。それとも、あるいはあなた自身が同じような趣味を持っているから、鞭打ちは問題ないという意味だったのかな」
「仮にそうだったとしても、頼むから俺を誘おうなどとは考えないでくれ。いかに君がエレガントなインテリジェンスの持ち主だったとしても、俺に身長190センチの大男を寝室に呼ぶ趣味はないんだ。そもそも俺の寝室に、ロープはあっても鞭なんてあった試しがないがな。どこで買うんだ、そういうものは・・・?」
「何と残念な話だろう。スコットランド・ヤードの警視をロープで縛りあげて鞭打つ、絶交のチャンスだったというのに・・・」
どこまで本気か見極めが付かないが、いったいいつスティーヴン氏に、その絶好のチャンスとやらが訪れていたのか、ずっと会話を聞いていた俺には、まるで気が付かなかった。
その後漸く話題は変わり、キャラハンは、昨年、イースト・エンドのバーナー・ストリートで起こった殺人事件について、スティーヴンに意見を求めていた。
それというのも、ミリアム・エンジェルという女性が硫酸をかけられて殺され、ポーランド系ユダヤ人のイスラエル・リプスキーが逮捕されたこの事件の担当判事が、驚いたことに、ここにいるスティーヴンの父親だからだ。
ちなみに検死官はウェイン・バクスターであり、当時は「反ユダヤ主義によってインクエストが曇らされた」という批判意見も多かった。
事件当夜、同じロッジング・ハウスで被害者の下のベッドに寝ていたという以外に接点がなかったリプスキーに、口の火傷が硫酸の取り扱いを間違えたせいなどとう、曖昧な理由で有罪判決が下り、内務大臣のヘンリー・マシューズが死刑に反対したにも拘わらず、最終的にタイヴァーンで処刑された。
当時からこの判決は冤罪ではないかという意見が多数派で、担当判事であるジェイムズ・フィッツジェイムズ・スティーヴンの批判を載せる新聞は少なくなかった。
ところがスティーヴンはあっさりとした様子で。
「父は父、僕は僕だよ。・・・ねえ君、フィルは今日、来てないのかな?」
などと、皿を下げに来たウェイターへ、知り合いらしい従業員のことを尋ねている。
食事が終わり、間もなくコーヒーが運ばれる。
「今日は休みのようだけど、君はこの店のウェイターに似ているよ」
そんなことをスティーヴンが言った。
それを聞いてキャラハンが、軽く吹き出している。
二人はそのまま、再びミリアム・エンジェル殺人事件の公判について話し込み始めたが、俺は閉口してしまった。
話についていけなかったこともあるが、スティーヴンの言葉の意味が、心に引っかかってしまったからだ。
ウェイターに似ている・・・とは、いかなる意味か。
どこからどう見てもスティーヴンは、洗練された紳士であり、有名な判事を父に持ち、ケンブリッジで研究員をしているという身分からも、上流階級の出身であることは間違いないだろう。
片やキャラハンは本庁の警視で、社会的立場の確かな男だ。
レストラン内を見渡せば、どのテーブルも金持ちそうな紳士しかいないように見える。
考えてみれば、詩人のスウィンバーンが食事に来るような店なのだ。
一介の刑事が、ふらっと立ち寄れるようなところでないのだろう。
それは確かに俺にもわかったのだが。
ウェイターに似ている・・・。
俺は今一度スティーヴンの言葉を、頭の中で繰り返してみた。
やはり馬鹿にされたのだろう。
言い方から、本人に悪気がないことは一応わかった。
しかし、気まぐれで誘ってはみたものの、あまりにも俺が場違いで、つい本音が口から出てしまったということか。
スティーヴンぐらい上流階級であれば、意識に差がありすぎて、そのつもりもないのに、相手を傷つけることも、あるいはあるだろう。
しかし、それを聞いて笑っているキャラハンが問題だ。
所轄の刑事の立場では、本庁の警視を相手に、文句を言うこともできないが、これがもしもアバラインであれば、恐らくは一言ぐらいスティーヴンを窘めてくれたであろう。
間もなくスティーヴンが、約束の時間が迫ってると言い出し、俺達は店を出ることにした。
これから従妹とデートだと言って、停めた馬車に乗り込むスティーヴン。
「楽しかったよ。またぜひご一緒したい」
そんな言葉とウィンクを残して立ち去って行く馬車は、クリーヴランド・ストリートを南下してハイド・パーク方面へ曲がっていった。
馬車が残した埃が舞う通りを、俺たちも同じ方向へ歩き始める。
「随分と気に入られたようだな」
「はい・・・?」
隣を歩くキャラハンが不意にそう言って、俺は噤んでいた口を漸く開いた。
ほぼ反射的な問い返しである。
誰が、誰に・・・?
見当が付かなかった。
キャラハンは意味ありげな笑みを浮かべて俺を見ている。
「スティーヴン氏が言っていただろう。君が、あるウェイターに似ていると・・・何が気に入らなかったのか、君はあれからずっとだんまりだったが」
「あ・・・いや、その・・・話に付いていけなくて」
「気にせんでいい。スティーヴンは君が拗ねたことにも気づいていなかったようだし、あの言い方では君が変な誤解をするのも当然だ。理解ができなかったことも無理はないよ、君はフィルを知らないからね」
「フィル・・・ですか?」
そういえば、あの会話の直前にスティーヴンは、俺達のテーブルを担当していたウェイターに、フィルという名前の男について尋ねていた。
いや・・・それだけではなく、俺はつい最近、フィルという名前をどこかで聞いていた筈だが。
考え込みかけた瞬間に、キャラハンが話を進めて、俺は意識をそちらへ戻されてしまった。
「フィルはあの店のウェイターでね。俺達が店に行くと、必ず彼が担当してくれるんだ・・・たぶんスティーヴンが、そうしてくれと店に頼んでいるんだろうな。彼はフィルをとても気に入っていて、聞くところによると一人で店へ寄ったときには、しょっちゅう仕事が終わったフィルを、食事や観劇に誘っているらしい。・・・気を付けたまえよ、ゴドリー巡査部長。彼は同性愛者だ」
そう言ってキャラハンは豪快に笑いだす。
「はあ・・・。ところでその、スティーヴン氏は大層上流階級の出身のようですが・・・」
俺が質問してみると、キャラハンはスティーヴンについて、もう少し詳しく教えてくれた。
父親は聞いていたとおり、判事であり、ミスター・ジャスティスの異名を持つ、ジェイムズ・フィッツジェイムズ・スティーヴン。
それだけではなく、叔父は文学史家であり『英国人名辞典』の主幹でもあるレスリー・スティーヴンで、彼自身もまた、かつてはエドワード王子の個人教師をしていたことがあるらしい。
「それだけじゃない。勉強だけを教えていれば良い物を、個室で二人きりになったのを良いことに、あのスティーヴンは我らが王子へ、男色まで教え込んだというのだから、呆れたものだよ」
本庁警視の暴言に、俺は面食らった。
確かにエドワード王子の良からぬ噂は、俺もときおり新聞で読んだりもするが、彼のような立場のある人物が、誰が傍耳を立てているとも知れない場所で、そのような話題をするのは好ましくないだろう。
「警視・・・、いくらなんでも無礼すぎます・・・。無責任な噂話はお止しに・・・」
通行人の視線を気にしつつ、キャラハンの発言を止めようとすると。
「噂? とんでもない、本人から聞いた話だから、嘘偽りのない事実だよ・・・もちろんスティーヴンが嘘を言っていなければという、前提条件が付くがね。・・・ゴドリー巡査部長、君はもっと思い切りの良い男かと思っていたが、意外に気が小さいんだな。それとも、王室に対する敬愛が強すぎるだけなのかな。だが、王室がらみというだけで、噂話を避けることは、警官として誉められたものではないぞ。我々はときに、そういう情報へ注意を払う必要もある。それが事前に犯罪から市民を守ることに繋がり、王室をお守りする結果にも繋がるんだ。エドワード王子に関しては、ホワイトチャペルのある店へ出入りされているという噂もある。同性愛を売り物にしているような、怪しげな店だ。既にとりあげている新聞もあるようだから、話ぐらいは聞いたことあるな?」
とたんにベンジャミン・ベイツのニンマリとした笑顔が頭に浮かんで、舌打ちしそうになった。
ベイツは警察や体制を目の敵にしているような、どうしようもない新聞の花形記者だ。
その記事を書いたのがベイツかどうかは知らないが、スター紙が何度かとりあげていることは間違いない。
「ええ・・・。ところで、さきほどスウィンバーンの話で、ずいぶんと盛り上がっていらっしゃいましたが、ひょっとしてあの店にはよく来られるんですか?」
これ以上王子の話を続けられるのは勘弁してほしく、俺は話を変えた。
キャラハンが苦笑する。
俺が話題から逃げたことなど、バレバレだったのだろう。
「ああ。スウィンバーンにダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ウィリアム・モリス、ジョン・エヴァレット・ミレー・・・あの店は、各界の文化人達が多く集まっているようだ。そもそもが、スティーヴン自身も詩人だしね」
「スウィンバーンも同性愛者ということでしたが、・・・その、ひょっとしてこのあたりに男娼館があることは、何か関係が・・・」
そう言った途端に、俺は足を止めた。
「・・・・・」
隣を歩いていた男がそうしたからだ。
先ほどまでの和やかな雰囲気はどこへやら。
キャラハンが目を見開き、驚いたような、いくらか非難をするような、複雑な表情で俺を見つめていた。
「あの・・・キャラハン警視・・・、俺何か不味いことでも・・・」
「君は・・・そうか。なるほど・・・」
俺にはさっぱり理解できないが、キャラハンは何かを俺に問おうとして、自己解決すると、再び歩きだす。
「・・・キャラハン警視?」
先にモーティマー・ストリートを曲がってしまったキャラハンに続いて、俺も彼を追いかけた。
方向は、先に馬車が行ったのと同じ、ハイド・パーク方面に当たる。
この先にはオックスフォード・ストリートがあるし、そこまで出れば馬車を止めるのも容易で、地下鉄駅もあるので、気にせず俺は付き合うことにした。
「そういえば、君はフレッドのパートナーだったな。うっかりしていたよ」
「ええ、まあ・・・一連の事件捜査にあたって、一時的にコンビを組んでいるだけではありますが。そういえば警視も、アバライン警部補をご存じなんですよね」
チャンドラーから聞いた話を、俺も確かめてみる。
「ああ。君とフレッドとの関係に、恐らく近いだろうな。もちろん、俺がフレッドの教育係で、今の君達と同じように、公私に亘るパートナーでもあった」
「あの・・・それって・・・」
あたりまえのように、そう明かすキャラハンに、俺は戸惑った。
公私にわたるパートナー・・・俺達と同じようなと、キャラハンは前置きをした。
どこで、どういう理由から気付かれたのかはわからない。
だがキャラハンは、俺とアバラインがプライベートでも繋がりがあることに気付いていた。
そしてかつては自分達もそうだったのだと、言っているのだ。
想像すらもしたことがなかった、アバラインの過去を、唐突に明るみにされる。
動揺する隙も、俺は与えてもらえなかった。
「君は男娼館のことをフレッドから聞いたんだろう? 極秘捜査中の案件を部外者へ口外することは、厳罰に値するうえに、案件が案件だけにその責任はフレッド一人ではすまされない。だが、フレッドがそんな話を、簡単に口外するような男ではないことは、俺が一番よく知っている。それと同時に、身も心も許した相手には、とことんまで情熱的で、甘い奴だということもな」
そこで一旦話を区切ると、キャラハンは俺を見てニヤリと笑った。
男娼館の事件について、アバラインがどれほど慎重だったかを俺は改めて思い出す。
その極秘捜査を俺が知っているということは、俺がアバラインに口を割らせたことを意味しており、原因となったアバラインの『甘さ』を、キャラハンが知っているからこそ、それを言い当てた・・・そういうことなのだ。
俺は自分の迂闊さを呪うしかなかった。
本庁の警視であるキャラハンがこの件を知っているということは、彼もアバラインとともに関係者なのだろう。
そのキャラハンが今、アバラインが厳罰対象だと言った・・・。
そしてそれだけで、済む問題ではないと。
「これはその、俺が無理矢理アバライン警部補に喋らせたからで・・・彼は、けして・・・」
無駄とわかっていても、そう言って押しきるしかあるまい。
俺が嫌がるアバラインから、暴力で口を割らせたのだと・・・・。
「彼を押し倒し、手首を縛りつけて、レイプでもしたのかね?」
状況が極めて事実に近いだけに、ドキリとしないこともなかったが、ここは素直に認めることにした。
実際はもう少し、甘いムードではあったのだが。
「そうです。俺は力づくで警部補を・・・」
「だったら彼はさぞかし大悦びしたことだろう。フレッドは強くて荒い男が好きだからな。それこそ縛ったりしたら、恍惚とした表情を浮かべやがる・・・相変わらずか。まあ、教え込んだ俺が言う事でもないんだが・・・」
「は・・・?」
のんびりとした調子でそう言うと、キャラハンはポケットから煙草を取り出し火をつける。
いつのまにか俺達は、オックスフォード・サーカスを通りすぎて、通りの向こう側へは青々としたハイド・パークの茂みが見えていた。
もう少し歩けば、マーブル・アーチが見られることだろう。
「だがな、お前を信じて打ち明けてくれたあいつを、裏切るような真似だけはやめてやれ」
「・・・・・・・」
不意に真面目な声で諭されて、俺は返す言葉もなくなる。
俺がしたことは、そういうことだったのだ。
「お前があの辺りをうろうろしていたということは、恐らく男娼館を探していたんだろうが、何も知らない人間が行っても簡単にわかるところじゃないから、無駄なことだ。これはフレッドには黙っていてやる・・・だからもうするな」
「ありがとうございます・・・けど、ひとつだけいいですか? 今も男娼館の案件には、モンロー元CID部長が関わられているのでしょうか。・・・それって、俺にはなぜそこまでされるのか、よくわからなかったのですが、・・・ひょっとして関係している王室関係者というのは、厩舎係などではなく、エドワード王子なんじゃ・・・」
「いいかげんにしたまえ、ゴドリー巡査部長」
「・・・・・」
壮麗なマーブル・アーチを背にして立ち止り、振り返ったキャラハンは、少し遅れて歩いていた俺を睨みつけていた。
この日初めて見るような、厳しい表情は、有無を言わせぬ迫力のあるものだった。
「二度とは言わない。この件に関わりを持とうとするな・・・お前が本当に、フレッドを思うならな。そして警告しておく。もしもあいつを泣かせるような真似をお前がするなら、そのときは容赦しない」
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