9月16日日曜日。
刑事課の窓際では朝から何やら、ディレクとメイスンが仲睦まじく背中を並べ、互いの顔を寄せ合っていた。
「よう、お二人さん。いちゃつくなら、人目につかないところでやってくれるか? ここは警察署だ」
俺が背後から揶揄ってやると。
「あ、おはようございますゴドリー巡査部長。・・・これを見てください」
そう言ってディレクが手にしていた新聞を、たった今までメイスンと覗きこんでいたページを広げた状態で持ってくる。
窓際に一人残されたメイスンはというと、真っ赤な顔で俯いていた・・・どうやら、メイスン巡査は、結構本気でディレクに恋しているようだった。
意中の相手の様子を見る限り、彼の恋が実るには、なかなか険しい道程が必要だと感じられたが。
「『ペルメルガゼット』だな・・・」
俺は新聞を受け取りながら、記事を確認する。
仰々しい字体の紙面には、下にコミカルなイラストが添えられて、以下のような文章が掲載されていた。

『殺人犯諸君に告ぐ。
以下は、未だに判明せざる殺人事件を将来、大幅に減らすとされている声明である。
小職チャールズ・ウォーレンはここに通知する。
本日以降、すべての臣民は、警察による真相解明を助けるために、殺人を行った際には死体に版刷りまたは印刷の名刺を残すこと、これができない場合には、読みやすい文字で住所氏名を記した紙を置いておくこと。
自首を希望する殺人犯に対しては、警官が昼夜を問わず、警察署に待機している。
希望があれば、警察署の一覧表を進呈。
スコットランド・ヤード、1888年9月某日』


「ちなみに、アバライン警部補やキャラハン警視はもちろん、アーノルド警視まで早朝からヤードへ呼び出され、まだ帰ってきません。戻って来られたら、また会議だとは思うのですが」
「おいおい、どうしてくれるんだ・・・ふざけんなよ」
俺は自分の席へ座って頭を抱え込む。
ウォーレンがこの記事を知って、捜査責任者であるアバラインや、管理職連中をヤードへ呼び出し、檄を飛ばしているのであろうことは、言われなくても想像がつく。
ということは、馬鹿にされてカンカンに怒っているウォーレンが、頭ごなしに彼らを叱りつけて、俺達の捜査へ口を出し、また頓珍漢な捜査会議が開かれるということを意味しているのだ。
やってられない。
「まあ、これはチャールズ卿も怒りますよね」
ディレクが新聞を覗きこみながら苦笑した。
記事の下には、煌びやかな制服と帽子をかぶり、玩具の馬に乗ったチャールズ・ウォーレンが、貧しいホワイトチャペルの一角にある、事件現場を訪れている風刺画が添えられていた。
ウォーレンの勘違いぶりを皮肉っているのだろう。


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