翌日、俺はクラブのオフィスへ赴き、会長達に謝罪した。
オリオル会長によると、あのときの言葉には、別に悪気がなかったということだった。
俺が怒るとは思わず、面食らっていたようであり、気に障ったみたいだからと、彼からも逆に謝られた。
副会長も酒の勢いとはいえ、口が過ぎたと反省していたようだった。
やはりあのときは、随分と酔っていたようだ。
「自棄酒でも飲まないと見ていられない試合をしちまった俺達にも、責任はあるだろ。それとパルコ席とはいえ、酒瓶を持ちこませたカルロス・リテラトゥラのいい加減な警備もな」
帰り道、ちゃんと謝ってきたことを、電話で報告をしたとき、厳島は俺にそう言った。
たしかにその通りだ。
不甲斐ない試合をしてしまった俺達が、何よりの原因なのだから。
そして、彼らも謝ってくれたとはいえ、会長へ直接手をかけたことに関しては、やはり大人としてのけじめが必要であり、俺には罰金が科されることになった。
金額については双方とも弁護士を通してこれから決まる。
東照宮も同じ処遇だったようだ。
シーズンも終盤ということで、一番避けたかった出場停止処分を免れたことは、不幸中の幸いだろう。
そして、俺も東照宮も選手としてその存在が必要とされている証左であり、有難い話だった。
「仲が良すぎるのも、困りものだな」
帰り際、直接駐車場まで見送ってくれたオリオル会長が、俺に言った。
言われている言葉は、あの日のロッカールームで聞いた内容とたいして変わらないのに、このときの俺には、彼の皮肉がまったく癇に障らなかった。
結局、初めから会長の言葉に変な含みはなくて、俺の意識の問題だったのかもしれない。
だとすれば、なぜ俺はその言葉へ過剰に反応を示してしまったのだろうか・・・・。
週が明けて、パロハボンの練習場。
ストレッチ中にふと視線を感じて後ろを振り返ってみると、厳島が石見と何やら話し込んでいた。
気のせい?
そういえば・・・あの夜、果たして俺が感じた厳島の固さは、現実のものだったのだろうか。
「・・・・・っ!」
今になって、なぜかそんな事が脳裏に蘇ってしまい、俺は下らない記憶を脳から追い出すようにブルンと頭を振った。
練習、練習。
すると、絶妙と言うか、むしろ最悪なタイミングで、今度こそ厳島と目が合って、次の瞬間、・・・彼がウィンクをひとつ寄越した。
「なっ・・・!?」
「春日、さっきから一人で何やってるの・・・」
コンビを組んで寝そべりながら背筋のストレッチをしていた東照宮が、俺に足を預けたまま、目一杯上半身を捻って聞いて来る。
身体が柔らかい奴だ。
「なんでもない。・・・ほら、集中しろ」
俺は、あの夜の記憶を完全に心の奥底へ封印することに決めた。

 

 

Fin.



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