街の西外れにある県立城西(じょうさい)高等学校。
そのすぐ近所に小高い山があり、山を背景に神社と寺が建っている。
神社は西陽(さいよう)稲荷神社。
寺は西峰寺(さいほうじ)といって、大晦日から元旦にかけて、この街一番の賑わいを見せる場所だった。
西峰寺では除夜の鐘を突きに来た参拝客へ、毎年甘酒を配ってくれる。
その仕事をしているのが、峰祥一とまりあの兄妹だった。
というのも、峰の伯父さんがここの住職だというのだ。
「お前ら偉いな・・・」
出してくれた甘酒の入っている湯呑を抱え、俺は甲斐甲斐しく仕事をこなす兄妹を見つめた。
そして飲み終わった湯呑を手にテントの前でウロウロしている子供を見つけて、ベンチから立ち上がる。
「ありがとう」
声をかけて俺は小さな手から、まだ温もりの残っている湯呑を受け取ると、桶の中に重ねて、割り箸はポリバケツへ捨てた。
桶はすでに空いた湯呑でいっぱいになっていた。
アルミの盆に重なっている新しい湯呑は、逆に残り少ない。
「よっしゃ、ちょっと俺も手伝うか・・・」
「気にしないでいいぞ」
湯呑の入った桶を持って洗いに行こうとした俺に、峰が声を掛けてくれる。
だが、彼は次々と甘酒を求める参拝客の対応に追われっぱなしだった。
まりあちゃんも落ちている割り箸を拾い集めたり、甘酒を掻きまぜたりで、手が離せそうにない。
いつもはツインテールの毛先を綺麗にカールさせている彼女は、今日は食品を扱う気遣いからか後ろで小さく纏めていて、残った前髪も甘酒から立ち上る甘い湯気で固まってしまっていた。
女の子なのになんだか気の毒で仕方がない。
住職の奥さんが新しい甘酒の鍋を運んできて、空いた鍋と交換していく。
見たところ、ここで働いているのは、あと本堂にいる住職だけのようだった。
「いやいや、タダ酒呑ませてもらったお礼だよ。そっちこそ気にするなって」
つまり、誰かが手を止めて湯呑を洗うしかないということだろう。
俺は峰に炊事場の場所を聞くと、桶を持ってそちらへ向かった。
「悪いな」
「いいって、いいって」

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