師匠と別れて数十分後のこと。
「あんた何一人で食べてんのよ!」
そう言いながら江藤が、俺の隣に腰を下ろした。
すぐに割烹着の小母さんがやってきて、江藤も雑煮を頼む。
「だってお前ら遅いんだもん。腹減ったんだもん」
「普通は待つでしょうに・・・あ、ありがとうございます」
今度は一度でオーダーが聞き取れたらしく、すぐに江藤の所へ同じものが運ばれてきた。
何か、釈然としない。
「あれ、山崎達は?」
「友達に会ったみたいで、ずっと喋ってたから、先に来ちゃった。・・・なによ、気になるの?」
江藤がちょっとムッとした顔で聞いてきた。
「そりゃまあ、ハーレム状態は悪い気しませんでしたから」
江藤の顔がみるみる膨れて行く。
「・・・・・・・」
返事がない。
さすがにヤバイと思い、俺は雑煮を尻の横へ置くとダウンのポケットへ手を突っ込み、中のモノを取り出した。
「手、出せよ」
「何よ?」
江藤がこちらを見る。
戸惑った目をしているが、声はまだ膨れたままだ。
「いいから出してってば」
江藤がお椀を膝の上に下げ、片手で箸と纏めて持つと、こちら側の手を恐る恐る出してきた。
俺はその手を取ると掌をひろげて、先ほどゲットしたものを渡してやる。
「これって・・・」
「お前ら遅いんだもの。待ってらんないから先に帰ってやろうと思って外に出たらさ、射的の兄ちゃんに捕まっちゃって、仕方ないから暇つぶししてたんだよ」
「何よ・・・それ」
「でさ、俺ヘタだから4500円使ったところで、兄ちゃんがあきれ果てて、もういいから持って行けって言ってくれてさ・・・それくれたの」
「4500円!? 信じらんない、あんたセンスなさすぎよ、それ! だからあたしが自分でやろうと思ったのに、あんたがさせてくんないから・・・っていうか、4500円も出したら、もっと良いヌイグルミでも何でも買えるでしょうに、あんた・・・バッカじゃないの!」
言い終えた江藤はマスコットを握りしめたまま、プイッとあっちを向いてしまう。
そして。
「ありがとう」
聞こえてきたその言葉は蚊の鳴くような細い声で、少し泣いているようにも聞こえ、まったく江藤らしくはなかった。
実際に手にした猫のマスコットは、作りが荒く、両耳のバランスも変だし、4500円どころか500円を出す価値もないような代物だった。
露店の兄ちゃんが同情してプレゼントしてくれたはいいが、江藤もガッカリするのではないかと、実のところ俺も心配していたのだ。
でも、今のありがとうを聞けた瞬間、俺は手に入れられて良かったと心から思えた。

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