「あ〜怖かったけど、可笑しかった」
お化け屋敷を出た佐伯は、とても満足そうだった。
「なるほどな・・・よく出来てるし、最後には笑いまで用意されてるし、あれは確かに楽しいけど、山崎には無理だな」
言うと佐伯が苦笑した。
潔癖症で乙女な彼女に、あの死体の熱烈な見送りは到底耐えられないだろう。
「でも次はなんとか山崎達を、頑張ってもう一度誘ってみるね。男の子の原田君には、アレ、嫌だったでしょ?」
「ははは、まあ確かに死体の野郎どもに抱きつかれても嬉しくはないけどな。でも楽しかったし、また次も山崎達に振られたら、誘ってくれて全然構わないぜ」
「ありがとう」
佐伯が巨乳ということも判明したし。
それにしても女の子というのは、たとえ相手が死体であっても、ああやって男から群がられるのは嬉しいもんなのだろうか。
まあメイクをとれば、中身は普通の男だが。
だからといって、路上や電車で同じことをやると犯罪になるし・・・要は雰囲気なのだろう。
うむ、難しい。
「しかし、バイトの幽霊は雰囲気出しすぎだよな・・・切腹とかすげぇ怖かった」
「もともとこの辺の屋敷で、その昔、夫が切腹を言い渡され、若い奥さんが後を追って首を吊り、一人取り残された夫の母が、その後食うや食わずの生活を送った末に土間で餓死しているのが発見されたっていう、悲惨な事件があったらしいの」
なるほど、それをテーマにしていたわけか。
そう考えると、なんだかうすら寒くなってきた。
「それにしたって、土間の婆さんまで再現するとは恐れ入るよな・・・せめて死体らしく転がってるとか、それっぽい演技するとかすりゃあいいのに、入り口でぼーっとこっち見ながら座ってるだけなんだもん、本物見ちまったかとマジびびったぜ・・・」
そのとき、突然佐伯が立ち止った。
露店で買いたい物でも見つけたのかと思い、俺も止まって彼女を振り返った。
「何の話してるの、原田君?」
「ん?」
俺の方こそ何の話を聞き返しているのか、聞きたくなった。
「土間にお婆さんなんていなかったわよ・・・」
佐伯の顔が心なしか蒼ざめている。
「またまた〜」
俺も段々寒くなってきた。
「だって、私もどこまで再現する気なのか気になっていたから、土間は何度も見まわしたもの・・・死体が転がっていないかとか、どこかに老女が立っていないかとか・・・ひょっとしたらお勝手から老女が入って来るかもとか、その辺で蹲っているんじゃないかとか・・・」
「おいおい、冗談やめろよ・・・座ってたじゃないか。日本髪の女の死体がぶら下がっていた向こう側で、土間の入り口に腰掛けて、恨めしそうな顔しながらこっちをボーッと・・・」
「やだもう、そういう冗談はやめてよ」
「おい、お前こそ、タチの悪い冗談やめろって・・・・って、えっと、マジですか?」
「そっちこそ、マジなの・・・?」
その後俺達は、たっぷり1分間は互いの顔を見合わせ、そのまま押し黙ると、無言で帰路についたのだった。
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