俺は峰の首の後ろへ手首を回して彼を引き寄せると、瞼を閉じて、彼のキスを深く受け入れた。
そうして何度もキスを繰り返し、その合間に俺は彼に伝えた。
「祥一・・・俺も好きだ」
「やっと言ったな」
微かに彼が笑ったような気がした。
「しょうい・・・あっ・・・」
彼の口唇が顎から首筋へと降りてきて、俺はその感触に酔いしれた。
「秋彦・・・」
いつの間にかボタンをすべて外されていたパジャマは、完全に前を開いた状態で、祥一の掌が俺の胸や脇腹をまさぐっている。
「ああ・・・祥一・・・」
感覚がどんどんと研ぎ澄まされていた。
「ここ、尖っているぞ」
「あんっ・・・ば、ばか・・・わかってるから、言うな・・・」
「感じるか?」
弱い部分に指先で触れられ、次にはダイレクトにそこを口に含まれて、舌先で転がされる。
「ああっ・・・そ、それはっ・・・やっああっ・・・」
胸に埋められた彼の頭へ掌を置き、髪を掴んだり、シーツを握りしめたりしながら、俺は快感に必死に耐えた。
このままでは、あっという間に上り詰めそうな気がした。
不意に祥一が顔を上げて、俺をじっと見おろしてくる。
「なあ、秋彦」
「な・・・んだ、祥一」
意識はまだ、朦朧としていた。
「玄関から、今誰か入ってきたようだが」
「え・・・」
俺も慌てて上半身を起こす。
確かに階下から物音が聞こえていた。
祥一が俺の肩を引き寄せて、耳元で低く囁く。
「お前はここにいろ、俺が見てくる」
「祥一、嫌だ・・・傍にいて・・・」
「大丈夫だ、すぐ戻るから・・・っと、階段を上ってくるみたいだな」
「祥一・・・」
頭の中を様々な出来事が駆け巡っていた。
夕方に会った、『彩』のマサという店員。
無言続きの留守番電話。
そして俺が受話器をとろうかどうか迷った、あの10時過ぎの電話・・・あるいは、俺がいるかいないかを、確認していたのかもしれない。
その誰かが・・・家に入ってきて、ここに迫っているのだとしたら。
おにいちゃんだとしたら・・・。
「秋彦、お友達が来てるの?」
不意にドアの向こうで、冴子さんの声が聞いてきた。
「えっ・・・」
俺は祥一と顔を見合わせる。
「起きてるんなら、ここを開けなさい」
「ああ、ごめ・・・」
「パジャマっ・・・」
立ち上がり掛けた瞬間、祥一が短く小声で指摘をしてくれて、俺は急いで身繕いをした。
祥一も布団の乱れを直し、それを確認してから扉をそっと開けると、疲れ顔の冴子さんが立っていた。
「お帰りなさい、冴子さん」
「ただいま。なんだ、あんた寝てたのね、戸締まりぐらいしてから寝なさいよ、まったく・・・私も疲れたから、寝るわよ」
「おやすみなさい・・・」
どうやら、仕事が一段落ついたから、タクシーで帰ってきたらしかった。
後ろを振り返ると、祥一はちゃっかりと一人で布団に入っていた。
拍子抜けして、俺もベッドへ入る。
ちなみに、翌日、祥一が家へ帰ってから発覚したことらしいのだが、頻繁に無言電話をかけていたのは、まりあちゃんのようだった。
祥一が携帯の電源を切っていたので、城陽の名簿でうちの電話番号を調べだし、かけてきたそうだが、本人に無言電話をかけている自覚はなかったらしく、留守電の応答メッセージが流れても、いったい何を言えばいいのかわからず、結果的に無言が続いてしまったらしい。
10時過ぎにかけてきた電話については、かけているところを母親に見つかり、何時だと思っているのかと怒られたから、コール途中で切ったようだった。
理由が判明してみると、どうということのない話だったというわけだ。
そして俺と祥一も、あれから、何もなかったように振る舞っていた・・・取り敢えず、表面上は。
Fin.