「そうだ、原田・・・これ、1日遅れだけど」
ダロール社のミントチョコ。
チューファの友達、カルロスに頼んで送ってもらったものが、今朝になってようやく到着したのだ。
本当は一刻も早く秋彦に渡したかったけど、手元に他のチョコレートが残っていることが我慢できなくて、返却を優先させた。
「一条・・・お前なぁ・・・」
案の定、秋彦が呆れている。
でもこれは想定内。
「一緒に食べようよ」
そう言いながら包みを解いた。
「って、ここでかよ?」
「はい、あ〜んして」
箱の蓋を押し開けて、丸い粒を一つ摘まみ秋彦の目の前に差し出す。
「あのなぁ、お前さっき本当に好きな子からチョコ貰いたいって自分で言ってたくせに、お前が俺に食べさせてどうすんだよ・・・んっ」
ポンポンと生意気な言葉を繰り出す彼の可愛らしいその口へ、緑色のチョコレートを放り込んでやった。
「美味しい?」
秋彦の表情がふわりと綻ぶ。
「うん・・・美味い」
「良かった・・・じゃあ僕も貰おうかな」
そう言って秋彦の小さな顎に指をかけ、彼の顔を少し斜め上へ傾けるとそっと唇を重ねる。
震えながら微かに開いた唇の隙間から、爽やかなミントの香りと、じわじわと伝わってくるチョコレートの甘さ。
舌を差し入れて、その味を僕も貪ると、秋彦も少しだけ舌を絡めてくれる。
彼とのキスはもう何度目だろう。
いつからかディープキスにもこうして、恥ずかしそうにしながら応えてくれるようになっていた。
ぎこちなく動かしてくれているその舌の上で、チョコレートがどんどん溶けてゆくのが判る。
「んんっ・・・」
秋彦が悩ましい声を上げ、僕は思わず彼の身体を引き寄せた。
小さな塊になったそれを僕は最後に彼から奪うと、ようやく唇を離す。
抱いていた腕の中で、秋彦の身体からぐったりと力が抜けて、そのまま僕の胸に倒れこんできた。
もっとしたい、という欲求を僕は必死で抑えた。
今はまだ、そのときじゃない。
「・・・・ごちそうさま」
秋彦から奪ったチョコレートは僕の舌の上で、一瞬で溶けてなくなった。
それでもチョコレートはチョコレートだ。
かなり無理矢理だけど、僕が貰った秋彦からのチョコレート。
僕が欲しかった、唯一のチョコレート。
次の瞬間鳩尾に強い痛みが走る。
腹にめりこんでいたのは秋彦が繰り出した会心のエルボー。
地面に跪き、遠のく意識の中で、僕はこんな夢が叶えられるのなら、秋彦以外にもあの不思議なチョコレートだけは、毎年貰ってもいいかもしれないと考えていた。
fin.
別のフレーバーを食べてみる
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