「ん?」
鞄から取り出した包みを手に持って、腕を突き出す。
「はい、これ」
「なんだ、俺にくれんの?」
原田君が包みを受け取った・・・その瞬間、指先が微かに重なって、彼に触れたその場所を、いつまでも意識してしまう。
そこだけ火が付いたように、少し熱い。
「言っておくけど、義理チョコだからね・・・か、勘違いしないでよね」
「はいはい、毎年ありがとさん」
昨夜、深夜遅くまでかかって作ったチョコレートクッキー。
メッセージカードを入れるかどうかで1時間悩み、ラッピングに悩んでさらに1時間かかった。
それを受け取った彼は、包みを開けることもなく、碌にラッピングを見もせずに受け取ってさっさと鞄に仕舞ってしまう。
それでも手にしたときの笑顔が嬉しくて、眩しくて、あたしはつい目を逸らす。
「1カ月後、忘れないでよ!?」
もっと言いたい事はあったのに、何も言えないあたしは、ホワイトデーの催促だけをすると彼の前を通り過ぎて先に教室を出た。
これは中学の頃から始まった、原田君とあたしの1年ごとの儀式。
初めはコンビニで買った、チロルチョコの詰め合わせからスタートした。
いつからか本を片手に、手作りになったそれは、何年か前からラッピングを工夫し、彼がアレンジしたチョコ風味の菓子の方が好きだと聞いてからは、バリエーションを研究して、そんなものばかり作るようになった。
「いつまでも義理なわけないでしょ・・・バカ」
教室から出て武道館へ向かいつつボソリと呟く・・・聞こえない。
聞こえなくていいんだ。
いつか自分で気付いてほしいから・・・それまでは”義理チョコ”でいいから。

 

その夜、中々寝付けずにベッドでぼんやりしていると、不意に携帯が鳴った。
「原田君・・・?」
着信したメールは簡素な内容。

”サンキューな。今日はさっさと寝ろよ。”

「馬鹿・・・他に言うことないの?」
でもそんなところが、あたしは好きなんだ・・・鈍感で、そのくせにとても優しくて。
だからこそ、残酷な彼が。



fin.
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