*四日目:祭りのあと* 廊下を歩くだけのことが、こんなにも苦痛だと感じたのは生れて初めてだ。 fin.
「これは、マジでやばい・・・日本までのフライトって、何時間ぐらいあるんだっけ?」
よくわからないが、10分より長いことは確かだろう。
10分というのは、今の俺が自分の尻でじっと座っていられると自信を持って言える、限界の時間だ。
それより長いと、多分気絶する。
3階に宿泊している一条とはエレベーターで別れた。
現在は19日深夜の4時半。
というよりむしろ、20日の早朝と言ったほうがいい時間帯だ。
チューファの東の彼方は、もうだいぶ白み始めており、まだ僅かに残っている星は、ブルーグレーの空で儚く瞬いている。
結局一条とはほんのさっきまで抱き合っていた。
もっとも、そういうことをいつまでしていたのか、正直なところ俺はよく覚えていない。
殆ど一条に宥められていたような気もするし、俺が泣き叫んでいただけのような気もする。
まあ、最後までしなかったわけでないのは確かだが。
寝静まった廊下を壁伝いにのろのろと部屋まで進むと、カードキーをスロットさせ、ドアを開けて入る。
峰はさすがに寝ているようだった。
ベッドへは行かず、浴室のドアノブへ手を掛ける。
「電池は買えたのか?」
心臓が止まるかと思った・・・そのままの意味で。
「お前・・・起きてたのか」
振り向くと、俊敏な動きでベッドから起き上がった峰が迷うことなくこちらへ近づいてきていた。
寝ぼけた様子もない。
まさか峰は、ずっと起きて俺を待っていた・・・・?
「どこへ行っていた」
峰が一旦立ち止る。
カーテンを開けたままの大きな窓からは、ほの明るいチューファの空。
電気を付けていない部屋の中で、窓ガラスを背に完全に逆光となった峰のシルエット。
「あの・・・いや、それは、ええと・・・」
俺が言い淀んでいると、峰がさらに歩み寄って来る。
「連帯責任をどうしてくれる気だ」
表情は見えないが、怒っていないわけはない。
「ごめん、本当に・・・」
不味い。
それ以上近づかれると、・・・身体も洗ってないし、中にまだ・・・。
そう思っていると峰が目の前で立ち止まり。
「これで許してやろう」
そう言って素早く唇を奪われた。
「早く風呂入って寝ろ」
そう言うと、また峰はベッドへ戻っていった。