突然、ぬるりとした感触を足の付け根に感じた。
同時に下から立ち上って来る、濃厚な薔薇の香り。
「たとえばそういう表情・・・それは僕だけのものだと、信じていいよね?」
言いながら篤が片手で器用に、小瓶の蓋をキュッと締めた。
掌に収まる黒っぽい小さな瓶に、業者のラベルはない。
一条邸の薔薇園に咲くピンク色の大きな薔薇・・・ロサ・ケンティフォリアと言ったか・・・その花弁から作られた、篤お手製のローズオイル。
以前にほんの一滴だけそれを塗られたことがあるが、使われた場所から熱を発し、変な気分になり・・・・絶対にただのローズオイルじゃないと、俺の中で断定された。
「篤・・・お前、それ・・・いつの間に、どこに隠し持って・・・」
その時は胸に一滴落とされただけだったが、延々と指先や唇で弄ってもらっても、じんじんとした感覚がなかなか収まらなかった。
しまいに何やら俺はとんでもない言葉を口走り、篤はそれを嬉々としながら実行に移し、翌日はその部分が真っ赤に腫れあがって、しばらく絆創膏を貼って登校したものだ・・・あの体験は、俺の人生で一番に忘却すべき明らかな汚点となっている。
胸であの状態なら・・・・もしも、あの場所に使われたりしたら・・・想像しただけで死にたくなる。
「もちろん部屋に一度戻ったときだよ。まさか会食の席へ持って行くものじゃないからね、常識として部屋へ置いていたよ。・・・まあ、君はつまらない小細工をして、教会へ逃げていた最中だったから、たまたま僕が部屋から持ち出すところを、見られなかったようだけどね。別に、隠し持っていたわけじゃない」
「そんなもん持ち歩いてる奴が、どの面下げて常識を語るって言うんだ・・・っていうか、なんで今それを持ち出して、・・・大体お前、小銭入れも持たずに、なぜそのチョイスをして部屋から出て来た・・・!?」
いや、そもそもどうして、そのアイテムを合宿に持って来ようと思ったのか、今この瞬間になぜ嬉しげに手にしながら、俺に圧し掛かろうとしているのか・・・大いに問い詰めたいが、そうするだけ墓穴がどんどん深くなることは間違いなかった。
まったく、なぜあんな変なオイルを、篤は作ってしまったのか・・・作り方を誰に教わったのか・・・もう、考えただけで眩暈がする。
「それは本当に、ひとつずつ答えたほうがいいのかな」
「いや、質問を引き下げる。忘れてく・・・ひゃっ」
Tシャツの下へ篤の手が忍び込んできた。
「なら、今するべきことはわかってるよね」
「お前っ・・・だっ・・・そこはっ・・・」
ぬるりとした指先が、迷うことなくまっすぐに俺の敏感な尖りを捕え、指先で摘まんだ。
「秋彦はここを弄られるのが好きだよね」
「んなことっ、ねぇ・・・んっ」
すぐに芯を持ったそこが不自然な熱を発し、じんじんとした感覚を脳へ伝えて来る。
駄目だ・・・頭がぼうっとしてきた。
もう片方の篤の手は、器用に俺のベルトを外し、素早くファスナーを下ろした。
その場所を見て篤がへぇ・・・と声を漏らす。
響きがひどくいやらしい。
「なるほどね・・・これはまた、大胆な」
腰骨よりかなり下でひかかっている、サイドが細いビキニ。
「あんま・・・見るなよ・・・」
小さな三角の面積の下で、主張し始めたものによって布がいっぱいに盛り上がっていることが、夜目にもはっきりとわかる。
これはかなり恥ずかしい。
篤がそこに触れてくると、俺はもはや声を抑えられなかった。
「秋彦、すごくいいよ・・・ただし、このビキニとジーンズは、今後僕と二人きりのときだけに着用すること。わかった?」
ゆっくりと形をなぞりながら篤が言う。
指先の感触へ神経が集中しそうになり、俺には篤の言葉へ意識を向けることが酷く困難に思えて、返事をするだけで精いっぱいだった。
「わ・・・っ、わかった・・・んんっ・・」
すると篤が、今度は容赦なく上下に擦りあげて来る。
俺を煽っている篤はどうかというと、まるで平気な顔をしているのに、そのまま彼のジーンズまで視線を下ろしてみると、そこはちゃんと俺を見て反応してくれていた。
器用な奴だと感心しつつ、だが今度はそこから目が離せなくなっていた。
「秋彦・・・ほしいの?」
俺の凝視に気が付いた彼が、軽い感じに尋ねて来る。
もっといやらしく聞いてくれないと、そうだとは言い辛い。
「そ・・・んなもんっ・・・」
だが俺の虚勢を無視して、篤が立ち上がると、目の前で自分のジーンズの前を緩めた。
黒いボクサー越しに盛り上がっていたものが、無造作に彼が下着をずり下げた途端、大きく反り返って外気に触れた。
これまでにも数えきれないほど、何度も見てきた篤のもの・・・、なのに、この時の俺はそれを目の前にして、少しの我慢もできないほど欲情していた。
欲しい・・・今すぐに。
篤が自分のものの根元に指を添えて、それを俺の顔へ近づけてくる。
体液のしみ出した先端が、俺の唇に触れそうだった。
「秋彦・・・舐めてくれる?」
篤が最後まで言い終わる前に、俺は無意識に竿に指を這わせ、唇で先端に触れていた。
薄く開いた隙間から、塩辛い体液が滲んで来る。
フェラチオなんて初めての経験だった。
なのに、俺はなぜだか自然と、この行為をしたいと心から望んでいたのだ。
口を開いて必死に舌を這わせ、掌で擦り上げながら、先を口へ含む。
中でどんどん篤の物が大きくなってゆく。
息が苦しい。
徐々に彼の呼吸も乱れてきて、もう少し・・・しかし、途中で髪を掴まれて俺は行為を止められた。
「あつ・・・し?」
良くはなかったのだろうかと不安に襲われる。
「そろそろ・・・君に入りたい」
それを聞いて俺は安心した。
俺も篤に来てほしかった。
少し乱暴に足を持ちあげられて、下着ごとジーンズを足から抜かれ、それを地面へ落とされる。
続いてTシャツも無造作に剥ぎ取られて、全裸にされた。
Tシャツはともかく、ヴィンテージ物のリーバイス501を、こうも無茶苦茶に扱われた経験は過去にないし、腹立たしい・・・だが、それを咎める余裕など、このときの俺には当然ある筈もなく、なぜなら・・・。
「や、やだっ・・・篤っ、それは・・・ひゃっ」
「ちゃんと濡らさないとね」
恐れていたことに、ぬるっとした液体をたっぷりあの部分へ落とされ、篤の指先が丁寧にそこへ塗り込んできた。
「お前っ・・・一度だって、そんな気・・・」
遣ったことないだろ・・・そう言いきる前に、俺の頭の中は真っ白になっていた。
その先のことは、もうなんだか記憶がごちゃ混ぜになっている。
しつこく出入りする指にじわじわと快感が呼び起こされ、間もなく篤が入ってきた。
・・・いや、その前に自分から、いいから早く入れてとか、滅茶苦茶に突いてとか・・・いや、まさかそんなことを俺は絶対に・・・。
と、とにかく。
結局いつまでそこでそうしていたのか・・・よく警邏中の警官に見つかったり、付近の住民に通報されなかったものだと、俺は思う。
何しろ気分が落ち着いてきたときの俺達は、本当に酷い状態で・・・俺の背中はベンチの背もたれで、あちこち擦り剥き、またしても乳首は真っ赤で、風呂に入るたびに悲鳴を堪える日々が5日ほど続いた。
あの部分は当然、しばらく使い物にならず、篤が何を言おうが、セックスは頑として1週間以上断り続けた。
もちろん、あの場で俺があいつからローズオイルを取り上げ、ついでに後日、ジーンズのリペア代も徴収したことは言うまでもない。


Fin.



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