「山崎、大丈夫だった?」
深夜の生徒指導室で、たっぷり1時間の説教を食らい、寮へ戻ってきたあたくしを出迎えてくれたのは、わがオカ研の佐伯と小森。
ホールの時計はすでに夜中の1時過ぎ。
今日は本当に疲れた。
順を追って話せば、まず峰さんの話の途中で原田さんと一条さんがホールを出てゆき、どこへ行こうとしていたのかは知らないが、寮から外へ出たお二人は、城南ロザリオノートルダム教会の前で、シスター・サフィックリフィスと鉢合わせてしまった。
シスター・サフィックリフィスとは、生徒の間で呼ばれている渾名であり、正式にはキリスト教の供犠を意味するシスター・サクリフィスというのが彼女の修道名だが、女性の同性愛者を表すサフィックと掛け合わせて、裏でそう呼ばれている。
根っからの男嫌いで、校内で男性と遭遇するたびに悲鳴をあげているので、その渾名になったのだ。
ちなみにれっきとした日本人で、本名は大川順子という、実直でなかなか美人の20代半ば。
つまり、このとき原田さん達はシスター・サフィックリフィスに悲鳴をあげられてしまい、他の先生方が飛んで来て、お二人は寮内でオカ研が合宿をしておりそこに男性が混じっていることを白状なさったというわけだ。
原田さん達は当然そのまま追い出されて、続いて出て来た峰さんが、恐らく同じ目に遭ってしまった。
その後、あたくしと先輩が玄関ホールで彼女と遭遇したという流れになる。
当然、あたくしは首謀者として、処罰をされた。
「明日から3日間、学校中のトイレ掃除を言い渡されましたわ」
城南女子は小、中、高と3つの学び舎があり、加えて講堂や体育館だけでなく、教会や寮に部室棟と、トイレの数は全部で50カ所以上もあるのだ。
個室数に換算すると、・・・数えたことがないので想像がつかない。
むろん、夏休みに冷房が利いているわけもない。
「それだけ?」
「何がそれだけですの!? 夏休みですのよ!?」
まったく、長期休暇早々ついていない。
「よかったぁ〜・・・停学とかだったら大変じゃない」
「・・・そりゃ、そうですけど」
「それに山崎がトイレ掃除の刑なら、元寮長はもっと厳しいんじゃないの? あそこを使おうって言い出したのは、あの人だし」
「ははは、本当にね・・・理不尽ですわ」
当然あたくしは、許可を得たうえでの合宿だと弁明したが、問題は親族以外の男性を宿泊させたことにある。
だが寮で起きたことなら、本来寮長も責任を問われてしかるべきなのだが、今回は名誉寮長が直接話をねじ込んだせいで、寮長へはまったく話が通っていなかったのだ。
つまり、あたくしのスタンドプレーと看做された。
これは理解できるし、そのことで寮長が罰せられても申し訳がないだけだから、却ってよかった。
しかし、この度の寮の使用は、元寮長がほぼ独断で決定したのだ。
そして元寮長はというと、これまた今や部外者であるため、処分の対象外。
結局、あたくしだけがその責任を問われたというわけだ。
「なるほどね・・・そうだったんだ」
「まあ、確かに原田さんたちはあたくしが呼び寄せたわけですから、文句を言う筋合いはないのですけど」
「でも本城先輩が何もお咎めなしっていうのは、ちょっと理不尽かもねぇ」
「部外者というのは本当のことですから、それも仕方ありませんわ」
「おっ、珍しく山崎が先輩の肩を持った・・・これはどういう心境の変化!?」
「べ、べつになんでもないですわよっ! ・・・・それより佐伯も小森も、一緒に明日からトイレ掃除ですわよ!」
「うん、わかってるよ」
「あら・・・ずいぶんと物判りがいいのね」
てっきり文句を言われるものと思っていたのに。
「だってそんなの当然じゃない。あたし達3人でオカ研なんだから」
「みくも初音様が行かれるのなら、どこまでもお伴しますぅ!」
Fin.