「いや。・・・そういうことなら、協力を惜しまんでもないと言いたかったんだ」 (第1章 了)
「協力・・・だと?」
「そうだ。・・・紹介が遅れたな。俺は二葉と言う・・・魔導士だ」
「魔導士・・・!?」
「ああ。見ての通りそこの坊ちゃんよりは腕が立つつもりだし、魔術で人を惑わし、攻撃をしかけ、あるいは守ることができる。・・・軍隊による正攻法が駄目なら、ゲリラ戦法ってのは、悪くない戦い方だと俺は思うぜ」
「ゲリラ戦法・・・か」
なるほど、俺達がやろうとしていることは、そういう言い方ができるかもしれない。
もちろん俺や白鳳だけでは犬死に同然だろうが、体術に優れ、魔術という得体の知れない技を持つこの男が協力してくれれば、いくらか道も開けるだろうか。
「冗談じゃないぞ! 魔術なんかで空を舞うドラゴンや、火に包まれ町を逃げまどう人々が救えるものか! 囚われた命を、身体を切り刻まれ、石にされ、欲望のはけ口にされた少年達を、君の魔術でどうやって救うというのだ!」
「そんなものを誰が救うと言った」
「なんだと・・・!?」
「二葉・・・?」
「だから履き違えるなと言っているんだ。お前たちの目的は、魔王殺害じゃなかったのか?」
「そうだが・・・」
「俺は魔王を殺すというのなら、協力してやると言っているんだ。お前らの国の、民の平和なんぞ知らん」
「最低だな・・・」
白鳳が言い捨てた。
「なんとでも言ってくれ。・・・さあどうする城陽?」
「俺は・・・」
民を救いたい。
国の平和を守りたい。
ドラゴンの吐き出す炎に逃げまどい、道の途中で泣き叫ぶ人々を、攫われゆく子供たちを追いかけて、跪いて号泣する彼らの母達を・・・そんな悲劇から、この陽の国を救いたい。
そして、白鳳もまた心は同じだと思う。
けれど、そのためにこそ、魔王を殺すべきだと判断し、俺は決意したのではなかったか。
魔王が生きているかぎり、同じことの繰り返しだ。
だからこそ。
「魔王を殺しに行く」
二葉の目を見て俺は宣言した。
「俺の助けは必要か?」
「ああ、ぜひとも助けて欲しい」
「城陽・・・!」
「わかっている白鳳。・・・俺も彼の考え方を全面的に認める気はない。けれど、俺と白鳳の二人だけじゃ、確かに犬死にしに行くようなものだと思う」
「・・・・・」
白鳳は肯定しなかったが、反論もなかった。
いや、彼も充分に理解はしているのだろう。
俺達だけではあまりに無力だ。
二葉がどの程度の強さを持っているのかは計り知れないが、この際戦力は多いほど良いに決まっている。
「いいだろう。・・・ただし、一つ条件がある」
「条件?」
「お前らの無謀な戦争に、命懸けで巻き込まれてやろうと言っているんだ。ただで力を貸すのは割に合わないだろう」
「そっちが言い出したことだろう、誰が頼まれもしないのに・・・っ」
「やめろ白鳳、・・・何だ、言ってみろよ二葉」
すっかり立ち上がり、今にも二葉へ飛びかかりそうな白鳳を、俺はそっと押し返すと、二葉に軽く促した。
「俺の伴侶になることを約束しろ」
「えっ・・・」
俺はまたもや耳を疑った。
途端に、自らの結婚式で、この男に口唇を奪われていたことを思い出す。
顔中に血が集まるのを感じた。
「きっ、貴様・・・ふざけ・・・」
「・・・・魔王を殺害し、俺もお前も生きていたらな」
今度こそ白鳳が飛びかかろうとしていたが、その機先を、継いだ言葉であっさりと制したのは、他ならぬ二葉自身だった。
魔王を殺害し、生きていたら・・・・・その前提条件を達成できる可能性は、おそらくゼロに等しい。
だからこそ、俺は敢えてこんな馬鹿馬鹿しい質問を投げかけていた。
「けど、俺はもう男だぞ。ウェディングドレスも似合わなければ、子供も産めないのに、それでもいいのか」
「ふむ・・・サイズさえ間違わなければ、ウェディングドレスは充分似合うと思うけどな。それに、俺の魔力を持ってすれば、男のままでも子をなすことは可能だぞ」
その1秒後、抑えの利かなくなった白鳳は全力で二葉に飛びかかり、そして俺と目を合わせたままで会話を続けながら軽く身を躱した二葉は、自分が立っていた空間に倒れ込んでいる白鳳へ一瞥もくれずに、こう明かした。
「魔力が増幅される森へ入ってしまえば、俺の魔力は恐らく充分な戦力になるだろう。けど、忘れてくれるな。魔力を増幅させる結界を森に張っているのは、他ならぬ魔王自身だ。けして楽観してくれるなよ」
深刻なその口調に、俺は絶望的な戦いへ足を踏み入れたという事実を噛み締めた。
そして、二葉が魔術ではなく、魔力という言葉を選択した理由を、このときはまだ、それほど深く考えなかったのだ。
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