「やめろって・・・くすぐっ・・・んんっ・・・だめだ・・・」
背後から回された長い腕を振りほどこうともがく。
しかし、その拘束は強くしっかりとした意思をもっており、まるで敵う気がしない。
体躯は一見細いわりに、シャツの下の身体は非常に鍛えられており、アドルフの力強さは俺を大きく凌駕することを、俺は既に知っている。
「気持ち良いの間違いじゃないのか・・・声が艶っぽく、誘っているようにしか思えないぞ」
「そんなわけ・・・ア、アドルフ・・・?」
彼の異変に気が付き、俺は身体が硬直した。
「どうかしたのか」
冷静な声でそう言いながら、後ろから当たっているアドルフのもの。
「どうかって・・・お前、だって・・・」
アドルフは前を固くしていた。
しかもそれを隠そうともせず、寧ろ俺を煽っているかのように、強く押し付けてくる。
「ピエール・・・お前がほしい」
後ろから首筋に口づけられた。
「いきなり、そんなこと・・・」
「前から言っている」
即座に反駁される。
その通りだった。
大学時代、彼に告白されて以来、俺はアドルフの気持ちをもちろん知っている。
「俺はゲイじゃない・・・」
「そうだな」
耳元へ口付けながら低い声音で応答を返され、その響きにまたもや背中がゾクリとした。
声が漏れてしまいそうになり、俺は息を吐くことで辛うじて堪える。
その間にも、首筋への愛撫は続く。
「お前とは、今までどおり・・・んんっ・・・は・・・あんっ・・・」
敏感な皮膚を舌先で舐めあげられ、すっかり油断していた前を長い指先が掠める。
「良い反応だ・・・で、今まで通り何だというんだ?」
明らかに言葉へ笑いが含まれていて悔しかったが、迂闊に口を開くと、またとんでもない声を出しそうで、じっと堪えた。
「なんっでも・・・・んっ・・・」
シャツの上から乳首を強く抓られる。
同時に首筋に吸いつかれ、息が荒くなるのを止められなかった。
俺はすっかり、アドルフの愛撫に感じていたのだ。
「コリコリになってきた」
「あ・・・あぁ・・・」
恐らくこれはわざとなのだろうが、執拗に耳へ口唇を押し付けながら言われて、今度は声が我慢できなくなった。
感じまい、感じまいと思うほど、身体は敏感になってゆき、もはや全ての接触が俺にとっては愛撫に摩り替っていた。
ベルトが外される音に、慌てて大きな手の甲を押さえたが、次の瞬間には身体を引っ繰り返されて、背中を壁に押し付けられた。
不意打ちに、靴底が床のセメントの表面を擦り、一瞬バランスを崩しそうになる。
そして強い力で腰の後ろを支えられ、もう片方の手で顎を捕えられた。
「ア、アドル・・・ふんんっ」
強く口唇を押し付けられる。
入って来る舌を拒む余力は、もうどこにも残っていなかった。
絡みつく舌に自分の物を合わせ、角度を変えながらアドルフの口付けを受ける。
シャツを剥がれ、ベルトを外されてファスナーを下ろされる。
「良い色をしている」
散々弄られ、いささか赤く腫れていたであろう乳首を見下ろしてアドルフが言ったが、暗闇の中窓から入って来る月明かりだけで、そこまで見える筈はないだろう。
「あ・・・んっ・・・アドルフ・・・」
今度は乳首を口に含まれる。
舌先で転がされるたびに、むず痒いような快感が身体を駆け抜けていった。
開いたファスナーの隙間からは彼の手が侵入し、いつかのように前を愛撫される。
軽く擦られただけで、すぐに射精しそうだった。
「出していいぞ」
優しい声で促されたが、俺は必死になって堪える。
そして自分からも彼の物へ手を伸ばそうとした。
「お前のも・・・触らせろ」
乳首への愛撫を中断すると、アドルフが少し驚いたように目を見開いて俺を見あげた。
熱を持った場所が唾液に濡れて、不意にひんやりとした空気に晒されるのがわかる。
「そんな風に煽っていいのか? 俺もあまりもたないぞ」
「ごちゃごちゃ五月蠅いんだよ」
充分に膨らんで前を押し上げている彼のジーンズへ手を掛け、ベルトを外し、ファスナーを下ろすと、それは勢いよく飛び出してきた。
「お前っ・・・」
「だから言っただろ・・・これ以上刺激されたら、すぐにでもお前を押し倒す」
下着越しにでもわかる、しっかりと勃起したアドルフのペニス。
俺は布の下からそれを取り出すと、先端が濡れた生殖器官へ指を絡める。
「大きいな・・・お前」
「初めて見るわけでもあるまい」
そう言ってアドルフが苦笑したが、ゲイバーで俺はずっと目を逸らしていたし、彼が自分を慰める様子を、動きと息遣いで感じていただけだった。
まともに彼のペニスを見るのは、多分初めてだ。
指を這わせ、形に沿って動かすと、アドルフが気持ちよさそうに息を漏らした。
すぐに掌が濡れ、屋内に水音が響きだす。
「気持ちいいか・・・?」
「ああ・・・いい」
俺は少し思案し、意を決して聞いてみた。
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