その後少しだけ洗い物を手伝い、住職の奥さんが作った雑煮を御馳走になって、西峰寺を後にする。
「あれ、お前確か・・・」
駅に向かってまだまだ賑わっている参道を歩いていた道すがら、俺は見覚えのある男と遭遇した。
男というか、少年とだ。
一見すると第二次性徴が来ているかどうかも微妙なほど幼い風貌の、中性的な美少年なのだが、実は彼には肉体関係のある医者の恋人がいる。
少年は、俺の顔を目にすると、非常に失礼な挨拶を返してきた。
「あ、畜生お前か!」
城西高校に通う彼とは以前、国立公園の森の中で、なぜか無理心中に巻き込まれそうになった縁がきっかけで面識を持った。
「えっと・・スペースシャトルじゃなくて・・・」
「ロケットでもスペースシャトルでもねえよ、慧生だよ、つまんねーんだよ、名前覚えろよ!」
いや、たった一度会っただけの、知り合いでもなんでもないヤツの名前を、ヒントと言えるぐらいには覚えていただけ、大したものだと自分では思うんだが。
そうそう、香坂慧生(こうさか えいせい)だ。
「で、慧生よ、お前こんなとこで何やってんだ?」
「いきなり呼び捨てかよ! 見りゃ判るだろう、呼び込みだよ! へい、いらっしゃい!」
ヤケクソ気味に慧生が、目を吊りあげながら突然俺を呼び込んだ。
いやいや、蝶ネクタイにベスト、白いエプロンでその呼び込み文句を使うのか・・・。
「お前、すげー寒そうだな」
深夜の1時を回り、外気温は10度もないだろう。
天気予報によると元旦は、所によって雪がちらつくという話である。
「寒いに決まってんだろ! 畜生、そのダウン貸せや」
「ああ、なんかさすがに気の毒だわ・・・」
俺は素直にダウンを脱ぐと、慧生の肩に掛けてやった。
慧生はそれを受け取ると、茫然とした顔で俺を見上げてくる。
しまったと思ったが、遅かった。
「ああ、じゃあえーと・・・バイト頑張れや。じゃあな」
どうせユニプロのダウンなのでくれてやっても惜しくはないということで、俺はセーター1枚になると、ジーパンのポケットに手を突っ込んで立ち去ろうとした。が。
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