「あのぐらいでなに照れてんだよ」
鳥居の少し前でようやく江藤を捕まえ、後ろから小さな頭を小突いてやる。
「ちょっと気安く触らないでよ、乱れるじゃない!」
「変わんねえぞ?」
「バカ! あんたみたいな無神経なのと、そんな風に見られたのが嫌だっただけよ、べつに照れてなんかいない!」
「はいはい、そうですか・・・」
耳まで赤くしやがって、可愛いんだか、可愛くないんだか。
「神聖なる西陽神社の大鳥居の前で、山猿がキイキイと五月蠅いですわね」
聞き覚えのある気位の高そうな声が、俺達より後ろから鬱陶しそうに言った。
嫌な予感がして後ろを振り向く。
この声は、まさか・・・。
「元旦早々、止めなさいよ山崎」
俺達のすぐ後ろで城南女子の3人が、道のまん中で突っ立っており、迷惑なことに人の流れを堰き止めていた。
「新年早々、山崎雪子・・・」
苦々しく江藤が呟く。
「原田さん、明けましておめでとうございます」
山崎が俺を見てニッコリと笑い、軽く会釈をしてくる。
黒っぽい振袖に、髪を結い上げて、藤の花の髪飾りを差した彼女は、かなり大人っぽく、正直江藤と同い年には見えなかった。
「おめでとうございます」
俺も挨拶する。
「こら、あたしには挨拶なしかい。っていうか、アンタもあたしに挨拶しなかった!」
「お前もしなかっただろうが」
「・・・そうだったっけ」
「そうだよ」
「ところで今日は、一条さんは一緒じゃありませんの?」
「ああ、アイツん家はなんか大晦日から元旦にかけて、忙しいらしくてさ・・・親戚連中が集まるから、あんまり外に出らんないらしい」
「そうでしたの・・・」
「あ、ねえちょっと待ってよ・・・アレ入らない?」
俺のすぐ後ろを歩いていた佐伯初音が声を上げた。
佐伯は爽やかな青い振袖を着ていた。
腕をすっと伸ばして佐伯が指さすその先には、入り口に少し大きめの黒いテントが立っており、「死霊の棲む家」と墨で書いた看板が立ててある。
「おいおい、神社の前にお化け屋敷なんか出していいのかよ・・・」
ちょっと罰当たりなんじゃないかと思ったが、中から盛大に悲鳴や笑い声が聞こえて来る。
クオリティの判断がし難い。
入場料は学生300円となっているので、別に入っても構わないのだが・・・クオリティも推して知るべきかという気もする。
「冗談じゃないわよ!」
霊感が強く、こういう場所が大嫌いな江藤がヒステリックに否定した。
まあ、そりゃそうか。
「それより原田さん、御神籤を引きに行きませんこと?」
山崎が俺の腕を取って手を絡ませながら聞いて来る。
すかさず江藤が反対側の腕を取って自分の方へ引き寄せた。
女二人の間に、一瞬火花が散った気がした。
「御神籤なぁ・・・」
正直興味がない。
「そういやここの御神籤って、よく当たるんだよね。あたしもやりたいなぁ」
江藤がめずらしく山崎に賛同した。
女は皆そういうのが好きなんだろう。
「みくは、初音様との恋の行く末を占いたいです〜」
小柄な小森みくは臙脂色の振袖を着ており、いつもはキャラクター物の髪飾りで留めてある髪には、今日は大きな花がひとつ咲いていた。
「おい、小森くっつくなってば・・・」
腕にしがみついてくる小森を佐伯が引きはがそうとする・・・この二人の関係も相変わらずのようだ。
ただ、これで全員から佐伯が振られたことになる。
なんとなくそのままぞろぞろと鳥居をくぐり抜け、小森を腕にぶら下げて歩く佐伯が、こっそりと後ろを振り返っていた。
未練たっぷりなその視線の先には、死霊の棲む家。
これでいいんだろうか。

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