カフェのあった通り筋から角を曲がり、西陽神社の参道に出る。
「おい一条・・・お前まさかカフェの人にチクったのか?」
さすがにそれは可哀相だと思い、ちょっと非難がましい目でヤツを見る。
振り返った一条の目は、まだ少し怒っているように見え、俺はすぐに目を逸らしてしまった。
どうしてそんな風に感じてしまうのか、その原因を俺は敢えて追究しなかった。
「まさか・・・だってお店には入ってないし」
「入ってないって、だって店の人が呼んでるってお前アイツに・・・って嘘だったのか!?」
俺が確かめると、一条はニコニコと笑って肯定した。
おいおい、アイツえらい怒られてたぞ・・・。
「たぶん、勝手に持ち場を離れたから怒られはしただろうね。でも慧生君は仕事をさぼっていたわけだし、まあ怒られるのは自業自得じゃないかな」
「それはそうだが・・・。あれ、そういやお前、家はいいのか?」
「良くはないんだけど、でもひっきりなしに親戚は来るし、明日の方がもっと忙しいから、断って出てきた。原田と初詣したいし」
そう言って一条が肩を抱こうとする。
俺はその手をすかさず払い落した。
「あ〜、なんか腹減ったぞ。お前どうせ親戚のおっちゃん、おばちゃんから、たんまりお年玉貰ってんだろ? なんか奢れや」
そう言ってヤツよりは一歩前を歩く。
「うんいいよ。原田何が食べたい?」
一条が俺の隣を歩こうとする。
「そうだな・・・一条、後ろ歩け、後ろ」
「ん? うん判った」
一条が俺の後ろを大人しく歩き始めた。
そのとき突然、クシャミが出る。
「ああ、畜生っ・・・っておいっ」
後ろからフワリと黒いコートを掛けられた。
一条が着ていたコートを脱いだようだ。
長身の一条のロングコートだから、かなりサイズが大きい。
情けないことに、俺が羽織ると丈が足首近くまで来ていた。
「僕はべつに寒くないから、それ着ていていいよ」
「そんなんいいって・・・」
というより、これはかなり恥ずかしい。
それに一条は確かにマフラーをしていたが、下は薄手のセーター1枚だった。
逆にコートはかなり保温効果があり、俺のセーターとじゃ暑いぐらいだ。
従って俺はコートを返す。
すると・・・。
「そっか・・・じゃあこうしようか」
そう言って一条が再びコートを羽織ると、後ろから内側に俺を入れようとした・・・二人羽織。
「・・・ってアホか!」
当然俺は一条を突き離すと、ヤツの首からマフラーを毟り取る。
「これ貸せや、これ」
たっぷりとしたマフラーはどうやらカシミアで、グルグル巻きつけると、これ一枚でも結構暖かかった。
次へ
大晦日の選択肢へ戻る
『城陽学院シリーズPart1』へ戻る