なかなか戻って来ない女子4名の様子を俺は見に行くことにした。
「おや、あれは・・・」
鳥居を出たところで突っ立っている青い振袖を見つけ、俺は声をかけてみた。
「あ、原田くん・・・」
佐伯は案の定ここに戻っていたようだった。
「そんなに気になるんだったら、もっと強く言って見ればよかったのに」
俺は佐伯を誘って死霊の棲む家へ入ると、20分ほどで出てきた。
中身はとても300円とは思えないほど本格的で、良い意味でも悪い意味でも期待を裏切る内容だった。
その後顔面蒼白な顔をして「トイレに行く」とだけ言い残すと、すっかり無言になった佐伯を外で待つことにした。
「原田さん」
女子トイレの前で佐伯を待っていると、ようやく御神籤が終わったらしい小森が声をかけてきた。
「よう、どうだった?」
尋ねると小森がちょっと困った顔になる。
「それが実は、破魔矢を落としてしまって・・・」
言ったきり小森が俯いてしまった。
落としたなら拾えばいいじゃないかと思いつつ、小森に引っ張られて俺は拝殿の向こう側へ連行される。
「おい、一体どこで落としたんだ・・・っていうか、お前、いつの間にこんなところに来ていたんだよ」
「もうすぐですから」
そう言って小森は、どんどん先へ歩いて行く。
西陽神社は西峰寺と並ぶようにして建っており、後ろは小高い山になっている。
拝殿の東側には山車庫、その奥には御神水の沸いている薬井戸があり、ここの水は万病に効くと言われていて、参拝客が飲んだり、ペットボトルに水を汲んで持って帰ったり出来た。
社務所ではペットボトル入りのテイクアウト用の御神水を販売していたりもする。
小森はその前も通り過ぎると、どんどんと茂みの方へ入ってしまう。
「おい、この先って山じゃないか・・・」
ジーパンを履いている俺はべつに構わないが、草履を履いた小森の白い足袋の先や着物の裾が、少し汚れていた。
破魔矢を落としたと言ったが、いったいどこで落としたのやら。
竹林を抜けると少し視界が開け、その向こうに池が見えていた。
少し先には釣り堀やボート乗り場もあり、白鳥が沢山やって来ている。
なかなか良い感じのところだ。
「着きました」
池の縁までやってきて小森がそう言った。
「お前・・・まさか」
「白鳥さんに餌をあげようとしたら、破魔矢を落としちゃって」
そう小森は言うが、どこにも破魔矢なんて見えない。
「おい、一体どこにあるんだ? 見えないぞ」
俺を連れて来たということは、とってほしいということなのだろうし、振袖の小森にしゃがませたり、膝を突かせるわけにはいかないから、取ってやらないこともない。
幸い水面は、手を伸ばせばすぐに届きそうだ。
だが、姿の見えないものを取ることはできない。
風で流れたのだろうか。
「ありますよ、ほらそこ」
小森が指さす。
俺は少し身を乗り出して、池を覗き込んでみた。
「見えないぞー」
「よく見てください」
「そう言ってもなぁ・・・」
そう思った拍子に、後ろからドンと尻を押された。
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