安請け合いをしたものの、洗い物は予想以上に過酷な仕事だった。
「うへぇ〜・・・なんで水がこんなに冷たいんだ」
とは言っても、自分からやると言った以上やり通すしかないし、俺がしなくても誰かがする仕事で、これまでは間違いなく峰やまりあちゃんが仕事の合間を縫って交替でやっていたであろうことも、想像に難くない。
「ううっ、指がかじかむ・・・」
何度か水を止めて指先に息を吹きかけながら洗い物進める。
途中で峰が入って来て、何故か俺の身体をマッサージしてくれた。
すぐにまりあちゃんが峰を呼びに来て、二人は出て行ったが、マッサージのお陰か身体が温まった俺は、残りの洗い物を一気に済ませることができた。
洗い物を終えて、再びテントへ戻ってみる。
参拝客はまだ数名残っていたが、甘酒配りはもう終了していた。
焚火も半分ぐらいに消えている。
「ごくろうさま・・・手伝ってくれたんだってね」
「いや、まあそんな大したことじゃないんですが」
割烹着姿の住職の奥さんが鍋を片付けながら声をかけてくれた。
「このあと皆でお雑煮を食べるから、一緒に食べて行ってね」
そう言って奥さんは鍋とコンロを一気に持ち上げると、俺がさっきまでいた炊事場へ向かって行った。
その後ろを湯呑が入った桶を持って、作務衣姿の住職が付いてゆく。
「あれ、峰は?」
「お兄ちゃん、なんかまたアレルギーが出たみたいで・・・・伯父さんが車で送って行きました」
そういうと、まりあちゃんは手早くとポリ袋の口を結んで、ゴミ置き場へ持って行く。
「ええと・・・住職なら今ここにいたんだけどなぁ」
突っ込むべきかどうか迷っていると、遅れてやって来たらしい参拝客が二人、鐘楼の方へ向かって歩いてゆく。
「なんかさっきの子、血だらけだったわよ・・・」
通りすがりにそんな会話が聞こえた気がしたが、深く考えないことにした。
とりあえず、峰の無事を祈りながらテントの解体に取り掛かった次の瞬間、大きなサイレンが聞こえ、土塀の向こうを赤ランプが遠ざかってゆくのが見えた。

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