焚火を取り囲むようにして長蛇の列になっている鐘楼を尻目に、砂利道を進むと炊事場があった。
「お邪魔しまーす。湯呑を洗いに来ました〜」
木枠の硝子戸をガラガラと引きつつ一応声をかけるが、返事はない。
真っ暗である。
土間に入り、手探りで流しに桶を下ろすと、次に電気を探して明かりを点けた。
それでも結構薄暗い。
流しの周りを見回す。
「さてと、湯沸かし器は・・・」
なかった。
マジですか?
どうやら水で洗うしかないようだ。
諦めて蛇口をひねると、勢いよく水流が飛び出し、びしゃびしゃと流し台や湯呑を弾いた。
「うへぇ〜・・・しかも、なんで水がこんなに冷たいんだ」
安請け合いをしたものの、洗い物は予想以上に過酷を極める肉体労働だった。
とは言っても、自分からやると言った以上やり通すしかないし、俺がしなくても誰かがする仕事で、これまでは間違いなく峰やまりあちゃんが仕事の合間を縫って交替でやっていたであろうことも、想像に難くない。
「ううっ、指がかじかむ・・・」
とはいったものの、冷たいものは冷たいのだ。
炊事場は本坊から渡り廊下で繋がっている独立した建物で、だだっ広い土間のまん中に、大きな木の机が置いてあった。
壁際に火力が大きそうなガスコンロがふたつ、そして流し台がふたつ並んでおり、それぞれのシンクは猫を二匹ほどまとめて洗えそうななぐらいに広くて深い。
別の壁際の台には見たこともないような大きな鍋やさまざまな調理器具、沢山の瓶が並んでおり、その並びには人が5〜6人は入れそうな貯蔵庫がある。
それなのに、湯沸かし器もなければ、暖房器具もない。
数分もいれば、冷えで腹を壊しそうだった。
さっさと終わらせるしかなさそうだ。
桶に水を張って、米粒を濯ぐと、綺麗な水で手早く洗い流していく。
だが、作業を3分も続けると、指先がジンジンしてきて湯呑を取り落としそうだった。
「いかんいかん・・・どうしたもんか」
水を止める。
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