「神聖なる西陽神社の大鳥居の前で、山猿がキイキイと五月蠅いですわね」
聞き覚えのある気位の高そうな声が、俺達より後ろから鬱陶しそうに言った。
嫌な予感がして後ろを振り向く。
この声は、まさか・・・。
「元旦早々、止めなさいよ山崎」
俺達のすぐ後ろで城南女子の3人が、道のまん中で突っ立っており、迷惑なことに人の流れを堰き止めていた。
佐伯初音ががため息まじりに山崎を窘めている。
「新年早々、山崎雪子・・・」
苦々しく江藤が呟く。
「原田さん、明けましておめでとうございます」
山崎が俺を見てニッコリと笑い、軽く会釈をしてくる。
黒っぽい振袖に、髪を結い上げて、藤の花の髪飾りを差した彼女は、かなり大人っぽく、正直江藤と同い年には見えなかった。
「おめでとうございます」
俺も挨拶する。
「あ、ねえちょっと待ってよ・・・アレ入らない?」
佐伯が、突然何かを見つけて声を上げた。
こちらは爽やかな青い振袖着用だ。
髪が短い彼女はとくに髪飾りを付けていなかったが、横分けにしてスタイリング剤で綺麗に固めており、より一層ナントカジェンヌっぽくなっていた。
いっそ振袖よりも着流しの方が似合いそうだが、先ほどから通りすがりの女子中高生がチラチラと我々の方を見て行くのは、たぶん、ヴィンテージのブルージーンズをクールに履きこなし、ユニプロのダウンジャケットを華麗に羽織っている俺に見惚れているわけではないことだけはなんとなく判った。
女心は複雑なのだ。
腕をすっと伸ばして佐伯が指さすその先には、入り口に少し大きめの黒いテントが立っており、「死霊の棲む家」と墨で書いた看板が立ててある。
「おいおい、神社の前にお化け屋敷なんか出していいのかよ・・・」
中から盛大に悲鳴や笑い声が聞こえて来る。
クオリティの判断がし難い。
入場料は学生300円となっているので、別に入っても構わないのだが・・・クオリティも推して知るべきかという気がする。
佐伯は目を爛々と輝かせて、そちらを一心に眺めていた。
よほど入りたいのだろうと思う。
「冗談じゃないわよ!」
霊感が強く、こういう場所が大嫌いな江藤がヒステリックに断った。
まあ、そりゃそうか。
「それより原田さん、御神籤を引きに行きませんこと?」
山崎が俺の腕を取って手を絡ませながら聞いて来る。
「御神籤なぁ・・・」
正直興味がない。
「そういやここの御神籤って、よく当たるんだよね。あたしもやりたいなぁ」
江藤がめずらしく山崎に賛同した。
女は皆そういうのが好きなんだろう。
「みくは、初音様との恋の行く末を占いたいです〜」
小柄な小森みくは臙脂色の振袖を着ており、いつもはキャラクター物の髪飾りで留めてある髪には、今日は大きな花がひとつ咲いていた。
「おい、小森くっつくなってば・・・」
腕にしがみついてくる小森を佐伯が引きはがそうとする・・・この二人の関係も相変わらずのようだ。
ただ、これで全員から佐伯が振られたことになる。
なんとなくそのままぞろぞろと鳥居をくぐり抜け、小森を腕にぶら下げて歩く佐伯が、こっそりと後ろを振り返っていた。
未練たっぷりなその視線の先には、死霊の棲む家。
これでいいんだろうか。
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