死霊の棲む家は古い空家でも改造して作ったのかと思わせるほど、よくできた日本家屋風のお化け屋敷だった。
入場料は300円と非常に安い。
入り口には見事に女の子ばかりが並んでいて、男は俺一人だった。
「なんか、ごめんね・・・本当にありがとう」
「いいって、いいって」
前も後ろも女の子。
中からは女の子の悲鳴・・・と、相変わらず聞こえて来る笑い声。
よほどチープなのだろうか。
出て来る女の子も、なんだか妙にはしゃいでいた。
チケットを買ってさっそく入ってみる。
「本格的な日本家屋だね」
お化け屋敷というより、本当に古い屋敷のようだった。
ただし外光は一切入っていないところを見ると、遮光カーテンが引いてあるのだろう。
床板を軋ませながら先へ進む。
BGMがおどろおどろしい。
「二階に行ってみる?」
階段の前で立ち止まり、佐伯が聞いてきた。
珍しく特に順路はないようだった。
段差の低い階段を上りつつ、俺達は二階へあがる。
下からは絶えず悲鳴が聞こえ、ときたま走る足音が響いたかと思うと、ごくたまに笑い声がそこへ混じった。
一体なんの笑い声なのだろうかと、非常に気になる。
日本家屋らしく天井は低い為、すぐに二階へ到着する。
閉じられた障子の向こうに、赤いライトが灯り、突然女の死体が上から落ちて来る。
なかなか怖い。
いつの間にか腕にしがみついていた佐伯が、ギュッとその手に力を込める。
「あ、えっと・・・・」
当たっていました。
あまりそうされると、ちょっとやばいです。
「ここ、入ってみる?」
次の間の前で佐伯が聞いて来る。
怖がりながらも楽しんでいるようで、俺が頷くと佐伯がすぐに障子をガラリと開けた。
その途端にぼんやりとした青い照明が下から灯り、まん中に座っている白無垢、無紋の裃を身に付けた侍が切腹した。
介錯人が刀を振り下ろすと同時に、断末魔の叫びが聞こえ、辺り一面が真っ赤に染まる。
「ひぇ〜っ」
「きゃあっ」
俺もさすがにびびった。
佐伯が俺に抱きつき、腕におっぱいがギュウギュウ押し付けられていたが、もう勃起どころじゃなかった。
二階は相当にヤバそうだったので、ふたたび下へおりた。
「おいおい、300円でこれはないだろう」
見たところ、先ほどの侍たちは、どうやら人形ではない。
アルバイトなのだろうが、演技が本格的で怖すぎる。
300円でこれだけの物を見せてくれるのだから、お得と言えばその通りなのだが、値段で舐めて入った客はたまったもんじゃないだろう。
廊下を進む合い間にも、あちこちに死体となったバイト達が転がっており、それがときおり立ち上がったり、後を付けられたり、ときには走りだしたりするから心臓に悪いことこの上ない・・・上がりの時間だっただけかも知れないが。
「ここ、普段は海浜公園遊園地に出してる会社なんだよ、知らない?」
「ああ、あのCMでやってるお化け屋敷か! あそこってこんなに安いのか?」
「ううん。遊園地で入るときには高校生で800円とられるよ。そこが、今年はお正月の間だけ、こうやって西陽神社に出張するって聞いたから、入りたかったんだよね。すごく本格的だって評判だったから・・・きゃっ」
鴨居で首を吊った日本髪の女が、上から落ちてきて、佐伯が悲鳴を上げた。
それは明らかに人形だったが、土間の入り口に座っている細い老婆が、恨めしそうにじっとこちらを見つめており、俺はむしろそっちのほうが幽霊っぽくて怖かった。
お婆さんのバイトもいるのだろうか・・・それともよく出来たメイクなのか。
「そろそろ出口だから、気をつけてね」
何を、と聞く前に理由が判った。
その辺で寝ていた死体が一斉に起き上がり、俺たちに抱きついてきたのだ。
佐伯はきゃあきゃあと悲鳴をあげつつ、しまいには可笑しくなって笑っていたが、俺はたまったもんじゃなかった。
なぜなら、全員男だったからだ。
抱きつく方も嫌だろうに、と思ったが、そこは仕事なのか、次から次へと青白い男や、血を流した男に抱きつかれて、俺も結局笑うしかなかった。
「笑いってこれだったんだな」

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