新学期が始まった。
恋しい寝床に別れを告げて支度をすると、外に出る。
「ううっ、寒い!」
ついでに眠い、辛い、ヤバイ。
短い冬休み中は、大晦日から元旦にかけて出かけた以外は、ほぼゲーム三昧で、昼夜逆転ぎみの寝正月が延々続いていた。
例年のごとく、最後の日になって慌てて宿題に手をつけたが間に合うはずはなく。
「おはよう、原田」
鈍り切った身体を引き摺り続け、ようやく遊歩道を抜けたところで、忠犬登場。
「おう、一条・・・あとで宿題見せろや」
「わかったよ、はら・・・」
「だめよ、一条君」
見事なタイミングで江藤もやって来た。
「まったく朝っぱらから山猿が五月蠅いですわね・・・あら、一条さん、おはようございます。原田さんもごきげんよう」
山崎達だ。
学校指定の白いウールコートの上から、白いセーラー服の襟を出している。
「おう、山崎」
挨拶を返すと、山崎がニッコリ笑いながら軽く首をかしげるようにして見せた。
背中までまっすぐに下ろした艶のある髪が、肩の上でサラサラと流れる。
何を着ても絵になる女だ。
だが。
「誰が山猿か!」
「山猿で気に入らなければ、雌ゴリラ」
また始まったようだった。
スパークする火花を避けるようにして、俺はそっと一歩退く。
間に立たされたら、たまったもんじゃなかった。
「あたしのどこがサルやゴリラだって言うのよ、山崎雪子!」
「あら失礼、根性無しのチキン剣士でしたわね」
「五月蠅い、この性悪女!」
「おい、江藤あまり興奮するな・・・」
言っても無駄と知りつつも、いちおう声をかけておく。
「あたくしが性悪女なら、あなたは男女ですわね!」
山崎が俺の声を掻き消すように、更に小学生並みの罵りを畳みかけた。
オトコオンナ・・・久しく聞かない単語だ。
「山崎、いい加減にしないと遅れるわよ・・・」
「みくは初音様と一緒なら、遅刻なんて平気です」
「だからくっつくなって・・・っていうか、遅刻は駄目でしょ!」
相変わらず佐伯にべったりな小森。
そして嫌がる佐伯。
俺はこっそりと一条に近づき、やつに念押しで耳打ちしておく。
「今のうちに先に学校行こうぜ」
そして俺に宿題を写させろ・・・と続けようとした。
「うん、じゃあ行こうか」
そう言って俺の肩を抱き寄せて来る一条。
すかさずその手を払い落す。
「こら、ちょっと待ちなさいそこの二人! 宿題は自分でやれって言ってんのが判んないの!?」
もうバレた。
「一条、逃げるぞ」
「うん、原田」
俺がダッシュすると、一条が嬉しそうに追いかけて来る。
「待ちなさいよ、こらー!」
江藤が鬼の形相で追いかけて来る。
ありふれた日常が、また始まった。
end
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