<エンド3:慧生編>
「毎度あり〜」
正月の深夜バイトに見送られながら、両手いっぱいの菓子やら炭酸ジュースやらおでんやらを抱えてコンビニを出たのが、深夜の2時過ぎ。
「まったく、言いたいこと言ってくれちゃってオニですか、あいつらは。おまけに峰は、途中で帰っちまうし・・・」
結局ゲームを最下位で終えていた俺たちは、罰ゲームとして駅前のコンビニまで買い出しを言い渡されていた。
これから食堂で新年会を開こうというのである。
だが、コンビニへ来る途中で、まりあちゃんから何度目かの電話を受けていた峰は、熱が下がらない妹を心配して一人帰ることになったのだ。
せめて買い出しだけでも付き合うと彼は言ってくれたが、年末からずっと寝込んでいるまりあちゃんの話を聞かされていて、これ以上付き合えとも言えず断った。
「へ・・・?」
信号待ちをしていた俺は、交差点の向こうに見覚えのある女学生を発見し、間抜けな声を出す。
「屁とはなんだ、屁とは! 人がせっかく心配して来てやったのに、失礼にもほどがあるだろう!」
交通量の少ない新春深夜の道路で、俺の声が丸聞こえだったらしく、交差点の向こうで女学生がわめき倒す。
漸く信号が青にかわり、俺は横断歩道を歩き始めた。
「いや、見覚えのある女学生がいるなあと・・・っていうか、その恰好で出て来たの?」
「着替えるのが面倒だったんだよ、秋彦だって袴姿だろ」
可愛らしい顔がそう言って頬を膨らませると、何が悪いとばかりに細い腕を自分の胸の前で交差させた。
「いや、別に。ただ萌えると思って・・・っていうか、手伝いに来てくれたんだ? 悪いね」
「べ、別に秋彦の為に来たわけじゃなくて、こっちに用事があるから来ただけであって、そしたら向こうから面倒くさそうな顔した秋彦が店から出て来ただけで・・・いいからひとつ貸せよ! 仕方ないから持ってやるよ!」
「ありがとう、慧生」
俺はおでんが入った包みを慧生に渡した。
「これだけかよ? いいからもっと貸せよ、どう考えたって、そっちのが、めちゃくちゃ重そうじゃんか!」
慧生が自らに課せられた仕事に対して、不服を申し出た。
「いや、こっちは何とかなるけどさ。それ、汁が入ってるから、一緒に持つとなんだか零れそうで・・・実はちょっと困ってたんだ。来てくれて助かったよ。本当、あいつら容赦ないからさ・・・まあ、冬場のおでんって確かに美味いよな」
「そう・・・かよ。んじゃまあ、しゃあねえな。ここで僕が欲張って、ジュースとか持っておでん零しちまったら、意味ねえし」
まだ不満そうに唇を尖らせつつも、渋々と言った感じに慧生が納得してくれた。
「そうそう。責任重大だから、頼んだよ」
「ったりめえだろ! 任せとけってんだ」
そう言うと、なぜか慧生は俺を追い越して、少し先を歩こうとした。
「おいおい、言った尻から走るなよ・・・おでん零れるぞ!」
俺も軽く走って後を追いかける。
「んなヘマするか! 秋彦もさっさと来いよ」
そう言ってこちらを向いた顔がアッカンベーと舌を出し、またクルリと背を向けると、小走りに学校へと帰ってしまった。
揺れ動く赤いリボンと、紺絣の振袖、そして紫の袴の後ろ姿が、俺の心に甘酸っぱいような感覚を残していた。
Fin
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