その後冴子さんは、俺に真相を話してくれた。
「英一が春江さんと会ったのは偶然だったらしいわ。でも話しているうちにすぐに夏子さんの妹・・・アンタの叔母だと気が付いて、私に教えてくれたの。そして英一はアンタ達を会わせたがったけど、私は反対した。突然だったし、アンタには悪いけど、やっぱり冬矢(とうや)のことを思うと・・・それに、もう二度とアンタにあんなことを思い出させたくなかったから」
俺は今でも覚えている。
というよりも、冴子さんはこう言ってくれるが、実は忘れたことなんて1度もない。
目の前にぶら下がる男の死体・・・父の冬矢だ。
母が死んだとき、父はまだ24歳だった。
18で母と知り合い、俺を身ごもった母のために大学を辞めて、昼夜のアルバイト生活をしていたと聞く。
だが、それまでイメクラで仕事をしていた母は昔の男が沢山いて、そのうちの一人にある日殺された。
俺の記憶の中に残る男の顔・・・あれが、父なのか、それとも犯人なのか、今となっては俺にも区別がつかない。
ただ、美しかった母が取り乱し泣き叫ぶ声と、男が俺に覆いかぶさって来る残像を、断片的に覚えているだけだ。
そして、忘れたくても忘れられない、父の死体。
母は今の俺と同じ17歳で俺を産み、22歳で殺された。
最初はそうとは聞かされなかったが、あるとき取り調べ中の犯人が証拠不十分で釈放されたと聞いて、冴子さんが昨夜のように泣き叫んでいた。
それで、俺は母が男に殺されたのだと知った。
母を殺し、父を自殺に追い込んだ犯人。
俺から両親を奪い、冴子さんから弟を奪った・・・許せる筈がなかった。
冴子さんは俺にあんな出来事を思い出させたくないと言うが、同じようにあんな冴子さんを俺は二度と見たくはなかった。
母がイメクラを辞めたときは、まだ16歳。
つまり、年齢を詐称してそんな仕事をしていたのだが、そして春江さんは今29歳。
ということは、やはり俺と同じ17歳のときに姉である母を亡くしており、俺達は今まで春江さんの存在を知らなかった。
母の親族のことなど、これまでまったく知らなかったのだ。
11で処女を失ったと春江さんは言っていた。
母は年齢を詐称してイメクラで仕事をしていた。
そこから碌な家庭環境は見えてこない。
俺は冴子さんや英一さんに何不自由なく育てられ、幸せだと心から言えるが、春江さんはどんな人生を歩んできたというのだろう。
そして母は・・・父は。
「冴子さん、お願いがあります」
俺は、もう一度春江さんに会いたいと告げた。
冴子さんは諦めたような声で承諾すると、力ない笑顔だが笑って許してくれた。
07
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