教室でチョコレートを検分する。
ピンク色の包装紙に白いリボン。
ラッピングを解いても、メッセージカードや手紙の類いはなし。
「ドリームチョコレートですって・・・?」
茶色いパッケージにはそう書いてあるが、メーカー名の記載もなし。
箱を開けてみる。
「願い事が叶う・・・変なチョコレートですこと」
結局差出人も不明のまま、チョコレートは返却出来なかった。
授業も終わり、学校を出たあたくしは校門の前で一度立ち止まると、鞄から用意しておいた白い封筒を取り出し、中身を確認する。
予約時間まであと40分。
「少し急いだ方がいいわね・・・」
通学路である駅方向へは向かわず、スポーツ文化公園前の通りを南へ進む。
城陽中学の体育館が建っている曲がり角で右に折れ、国立公園の鬱蒼とした森が彼方に見えて来ると、間もなく城陽学院高校の広大な校庭が左手に現れる。
緑のフェンスに沿ってさらに西へ歩くこと約5分。
国際規格のサッカーグラウンドと3面並んでいるテニスコート。
さらに野球部と陸上部、ラグビー部が余裕で部活動に励んでいる・・・いつ見てもあきれるほどの校庭の広さだ。
ようやく校門が見えてきた。
戦前から残されているという、特徴のある赤煉瓦で作られた校門脇の壁を通り過ぎる。
「やだっ、もうなんでいきなり山崎雪子なの!?」
講堂前のアスファルト舗装された道を歩いていたところで、昇降口を出てきたところらしい元道場仲間に出くわした。
「あら、ごきげんよう江藤さん」
御挨拶をしてさしあげると、あたくしよりは12センチも低い小さな身体いっぱいに闘志を漲らせ、気ばかり強そうな江藤里子がジィーッと強い視線で睨みあげて来る。
本当に、いつ見ても子犬のような娘。
「どうしてあんたがここにいるのよ、自分の学校に戻ったら!?」
「可笑しなことを。もう学校なんてとっくに終わっておりましてよ。放課後にどこを歩こうが、あたくしの勝手でしょう? それより、ちょうど良かったわ。あなた、同じクラスでしたわね。一条さんの元に案内してくださらないかしら、委員長さん」
「え、何よ・・・一条君に用なの? それだったら、もうとっくに帰ったわよ。あの子帰宅部だし」
「あらそうなの・・・・迂闊でしたわね。やはり先にご連絡してさしあげるべきだったかしら」
それを聞くと、江藤が珍しくニヤニヤと笑い始めた。
「まさか・・・あんた一条君にチョコ渡すつもりだったとか? ふ〜ん、あんたがねぇ」
何を勘違いしたのやら、小娘がつまらないことで楽しそうである。
「なら、いいわ。原田さんは? どこにいるか、あなたご存じ?」
「ちょ・・・ちょっと、原田君に何の用だっていうのよ!」
とたんに江藤が狼狽しはじめる。
愉快だ。
「何の用でもべつにいいでしょう? あなたにどうしていちいち教えないといけないのかしら」
「り、理由もわからないのに居場所を明かすわけにはいかないわよ・・・あ、あたし委員長だもの!」
「まあ、なあに〜、その変な理由? ・・・いいわ、そんなに知りたいなら教えてあげるわよ。デートよ。ご招待してさしあげたいところがあって、お誘いに伺ったの。さあ、原田さんのところへ案内してくださる? 責任感の強い委員長さん?」
「な、なんですって!? どうしてあんたが原田君とデートなのよ! だいたい、さっきは一条君って言ってたでしょう? なのに、なんでいきなり原田君になるのよ、変じゃない!」
「いちいちうるさい人ねえ。一条さんがいらっしゃらないって言うから、原田さんをお誘いするって申し上げてるのよ、何が変なのかしら」
「デートって言ったじゃないの、どうして相手がコロコロ変わるのよ」
「最初にお誘いしたかった方がいらっしゃらないんだから仕方がないでしょう、あたくし一条さんのお宅を存じないし、携帯番号もわからないし。それとも、あなた、教えて下さるの?」
「言うわけないでしょ。それに一条君を誘ったって無駄よ。あの子があんたの誘いに乗るとは思えない」
「まあ、仰るわねぇ。いいわよ、べつに。こっちも時間がないから、口説いている暇はないもの。さ、原田さんの居場所を教えてちょうだい。まだ教室? ああ、もういいわ。自分で探します。2年は3階でしたわよね、確か」
「行っても無駄よ。原田君も、もう帰ったから」
立ち止まる。
「それを早く仰いよ。・・・これはさすがに困りましたわね」
手にした封筒を眺める。
そろそろ向かわないと時間に遅れてしまうだろう。
「何よそれ・・・映画のチケットか何か?」
そこへ武道館の方向から道着を着た女の子が、江藤の名前を呼びながら走って来た。
1年生のようだ。
どういうわけか江藤がうろたえ始める。

 04

『城陽学院シリーズPart1』へ戻る