「それじゃあ男女二人ひと組で中に入る。スタート地点はここ、旧校舎の昇降口で、前の二人がスタートした5分後に出発。3階の音楽室まで行ってから帰ってくること。その際、音楽室前で写メを撮影し、それを証拠とする」
俺は簡単に説明を終えたところで、参加メンバーの顔を一通り見渡した。
「で、・・・なんであたしが付き合わされるわけ?」
江藤里子(えとう さとこ)が不機嫌そうに文句を言う。
「仕方ないだろ、奇数じゃ割り切れない」
というわけで、委員会帰りの江藤が渡り廊下をノコノコと歩いていたところを、俺に発見されて引きずり込まれたのだ。
「しかし俺はべつにどうでもいいんだが、このままでは男女二人ひと組は無理じゃないか?」
城南女子が3人いたので、頭数を合わせるために一条に誘わせた峰祥一(みね しょういち)がもっともな問題提起をしてくれた。
「その通りさ。で、それは誰のせいなんだ、誰の? ・・・とりあえずコンビを決めるから、みんなさっさとここに名前を書いてくれないか?」
A4サイズの用紙をピラピラを見せつつ俺は言う。
「そもそもそのチラシが不評だったのが、赤字の原因じゃないの?」
江藤が生意気なことを言った。
「冗談じゃないぞ。この芸術性溢れる広告デザインのどこに問題がある。英一(えいいち)さんだって褒めてくれたぞ」
英一さんとは、俺が世話になっている冴子(さえこ)伯母さんの旦那さんだ。
ガキの頃に両親を亡くした俺を引き取ってくれた、心優しい夫妻である。
ちいとばかしクローゼットの中身がイメクラっぽいところが、ユニークな家だ。
英一さんは有名な画家で、年中海外を飛び回っている。
今は帰国中であり、この文化祭が終わるとすぐに始まる、秋の芸術週間で、特別講師として城陽(じょうよう)で講義をしてくれるらしい。
そんなわけで今日は下見も兼ねて、モデルの蒲公英春江(たんぽぽ はるえ)さんという女性と一緒に、文化祭に来ていた。
そう、日ごろは風景画が専門の英一さんだが、特別授業では人物画を講義してくれるらしいのだ。
「何ニヤニヤしてんのよ、気持悪い・・・」
「べつに回想してニヤついてなんかいないぞ」
「そういえば小父さんが連れていたあの綺麗なモデルさん、どことなく原田に似てたよね・・・」
一条が言った。
「それはないでしょ、だってあの人凄い年上じゃない。化粧だってちょっと濃かったし」
「おお怖っ・・・女ってのはこれだから」
「うるさい! とにかくアンタのこの気持ちの悪い蛸の絵のおかげで、ウチのクラスは大赤字だったんだからね! 大量に余ったビラの束が何より証拠!」
「んなことねーって。褒めてくれた英一さんのセンスにケチつけんのかよ」
「大人がいちいち子供の落書きに、真面目に取り合うわけないでしょ。そんなこともわからないの? みんなが楽しみにしていた打ち上げ、なくなったの半分ぐらいはアンタのせいだからね。謝っときなさいよー」
くそー、ムカつく。そこまで言うことねーだろ。
それはともかく、一条の意見に同調するわけじゃないが、俺も実はちょっと思ったのだ。
母さんに似てた・・・・?
「で、何よ。これを引けっていうの?」
さんざん俺に暴言を吐いた江藤が、俺の手からインテリジェンス溢れすぎて凡人には難解な、高度な芸術作品である、タコ焼き宣伝用チラシをとりあげる。
その裏に、さきほど俺様が即席で用意してやったアミダくじ
「線の上か下に名前書いてくれ・・・あー、できるだけ女は下に書いてくれよ。あとで適当に横線書きたすから」
「あら、お兄ちゃんは私と回るんだから、そんなの必要ないわよ。ねぇー?」
峰の腕に抱きつきながら、峰が勝手につれてきた飛び入り参加の、無敵美少女まりあちゃんが言った。
さっきから相当な白けムードが漂い始めている城南女子ガールズのあたりから、今の一言で闘志の焔が垣間見えた・・・気がした。
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