「たしかに。男3人対女が5人では、クジを引く意味なんてないかも知れませんわね。それでは、一条さん、あたくしと回っていただけないかしら?」
「えっ!?」
山崎雪子(やまざき ゆきこ)が言った。
彼女がどうやら一条に肝試しを持ちかけた張本人らしい。
つまり事件の発端というわけである。
山崎は、目もとが涼しげで髪の長い美少女なのだが、彼女がそう言ってほほ笑みかけたにもかかわらず、ナンパしたはずの一条が動揺して俺の顔色を伺っている。
助けろということなら、喜んで。
「それよりさ、山崎さんはこのあと俺と・・・」
「くっだらない。あたしは降りるわよ!」
俺の言葉を遮って、江藤がキレた。いきなりキレた。
なんなんだよコイツはー!
「おいおい、だからお前がいなくなると、頭数がだな・・・」
「あ〜ら、江藤さん、相変わらずの敵前逃亡癖、まだ治っていらっしゃらないようですわね」
山崎が言った・・・え、何この展開!?
「なんですって・・・山崎雪子、もう一度言ってみなさいよ」
江藤の目が据わっている。
声が怒りに打ち震えている。
一体何事だ?
「何度でも言ってあげるわよ。根性無しの江藤里子は、夜の校舎にも入れない怖がり剣士〜♪」
山崎が歌い始めた・・・・あの気取った美少女が・・・ははは、なんだよコイツらは〜一体!
「んのっ、やまっざきっ・・・ゆきっこっ・・・!!!」
江藤が拳を握り締めて、山崎に歩み寄ろうとする。
「おいおい、やめろ・・・暴力はいかん、暴力は」
「離して原田くん・・・山崎雪子、覚悟っ・・・」
「江藤里子のチキン娘〜♪」
「ちょっと、いい加減にしなさいよ、山崎・・・」
山崎の隣にいた背の高いボーイッシュな少女が山崎を窘めた。
彼女は佐伯初音(さえき はつね)。山崎のクラスメイトということだった。
「みくは初音さまと一緒がいいですぅ〜」
「こら、離れろ小森・・・!」
最後の一人が小森みく(こもり みく)。1年生で、カールした髪を両耳のあたりに、キャラクターもののヘアゴムで2か所ずつ留めている、小柄な女の子。
どうやら佐伯のことを慕っているらしく、さっきからずっと彼女にベタベタとくっついては、当の佐伯に嫌がられている。
「しかし、どうして旧校舎なんぞに入りたがるのかサッパリ判らんな」
「お前冷静だな・・・」
目の前の混乱など目にも入っていないらしく、ボソリとつぶやいた峰に俺はツッコんだ。
が、確かにこだわる理由は俺にもよく判らない。
極限心理状態における恋愛発生率を考慮した場合、肝試しが有効というのは判らんでもないが、それなら臨海公園駅前あたりにでも出れば、ゲーセンのお化け屋敷ぐらい、1、2軒ないこともない。
女の子がキャーキャー言って目当ての男子に抱きつきたいというだけなら、そのほうが手軽で危険もないんじゃなかろうか。
どうせ一条目当ての山崎が持ちかけた話なんだろうが、それで十分効果が得られるはずだけに、確かに他校の旧校舎へわざわざ侵入したがる理由が判らない。
「あら、あなた城陽の生徒なのにご存じないのかしら? この校舎ではかつて火災に遭って音楽の先生が亡くなっているの。それ以来ときおり、誰もいない音楽室から、その教諭が大好きだった月光のピアノ演奏が聞こえてくるという、不思議なお話がありますのよ」
山崎が言った。
「いや、その話なら知ってるが・・・」
「だから雪子、それは間違ってる。ベートーベンが好きだったのは、その後に亡くなった女子生徒。持病もなかったのに、演奏中に突然苦しみもがきながら、亡くなったの。彼女は音楽コンクールの出場を目指していて・・・」
「あー悪かった、悪かった、っとに細かいわねー・・・。とにかくそういうことですから、一条さん、あたくしと・・・」
「えっと・・・いやぁ・・・」
山崎のあからさますぎる二重人格ぶりに、さすがの一条も相当引いているようだ。
男に対する態度と女同士での態度をコロコロ変える女はよくいるが、それを隠そうともしないヤツも二重人格と呼ぶのなら、の話だが・・・、こうもはっきりしているとむしろ興味深いかもしれん。
さすが江藤の知り合いだ。
「ねえ、君たちってなんでそんなに、余所の学校の伝説に詳しいの?」
「だって私たち、城南女子学園のオカルト研究会ですから」
小さな百合っ娘小森がニコニコと笑いながら教えてくれる。
「オカルト研究会?」
「はい! オカ研ガールズと呼んでください」
「オカ研・・・」
どう返答すればよいのやら・・・城南女子は変な子たちばっかりなのか?
「おい原田、次」
突然目の前にあみだクジが出された。
あみだの線の端に、すでに3人の名前が書き込まれている。
そのうちのまりあちゃんの名前は、あきらかに峰の筆跡だったが。
まりあちゃんは相変わらず峰の腕にぶら下がりながら、ブスッとした顔で俺を睨んでいる。
いやいや、だから俺のせいじゃないって・・・。
俺も自分の名前を書き込むと、江藤達に残りの空欄を埋めさせた。
引き終わったら、適当に細工してまりあちゃんを峰と組ませてやらないと、酷い目に遭いそうだな・・・俺と言うより、たぶん峰が。
04
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