昇降口の前に立つ。
明かり一つ灯っていない校舎は、さすがに真っ暗だ。
目が慣れるまで足元に気をつけないと。
と、そのとき。
悲鳴が奥から聞こえた。
「江藤・・・?」
「山崎さんもだね・・・」
言っている間に足音が近づいてきて・・・。
「・・・嫌よ、冗談じゃないわ!」
「あたくしも、これ以上は無理ですわ。・・・あ、一条さん・・・申し訳ないけれど、あたくしこのゲームを一足先に棄権させて頂きます」
早口でそう告げると、二人は血相を変えて渡り廊下へ逃げて行った。
「あははは・・・なんだかんだ言って、やっぱり女の子だね」
一条はそう言って見送ると、俺を追い越して中へと入っていく。
帰ってしまう勢いで去って行った江藤と山崎は、部室棟を通り越して武道館前まで走ると、ようやく足を止めて入り口の段差に腰を下ろし座り込んだ。
二人とも無言で荒い息をついている。
「そこまで怖がらんでも・・・」
「原田ーこっちだよー」
奥から名前を呼ばれて、俺は一条の元まで小走りに駆けよった。
霊感が強いあの二人が、あそこまで怖がるとは・・・やはりここには何かあるということなのだろうか?
光源のない木造の校舎は踏みしめるたびに床板を軋ませる。
廊下まで入って来ると北向きに並んだ窓からは、広いグラウンドとテニスコート、サッカーグラウンドが見晴らせ、ナイター用の明るい照明から、結構な量の光が差し込んでくる。
従って、昇降口ほど暗くはない。
「おい一条、先々行くな」
早くも突き当りの角を曲がって階段を上ろうとしている一条に声をかける。
「あ、ごめん原田・・・ハイ」
階段の1段目に立った一条が声をかけて立ち止る。
「?」
外光があった廊下から一気にまた視界が暗くなり、一条の姿がシルエットでしかなくなった。
何の「ハイ」だか思案していると・・・、
「行くよ」
続けて声が聞こえたその瞬間、片手がとられたことを感触で知った。
手を繋いで歩こうということらしい。
「何の真似だ、ボケが」
即座に振り払うと、後ろから腿裏をめがけて力いっぱい蹴りを入れ、悶絶している一条の横を通り抜けて先に階段を上がった。
「痛いよ原田・・・」
「さっさと来ねえと置いていくぞ」
弱々しい声を上げつつ、何かを引きずるような不自然な足音が後ろから俺に付いてくる。
「2階はまあいいか・・・」
廊下へ視線を投げかける。
ここは元々普通教室ばかりが並んでいたと聞く。
1階に比べて傷みの少ない、意外と綺麗な床や壁が、外光に照らし出されて見えた。
それにしても、ちょっと静かすぎやしないか?
「ねえ・・・・」
「うわっ!」
「危ないっ・・・!」
突然間後ろから声をかけられて吃驚した俺は悲鳴を上げると・・・
「こら、てめぇ・・・!」
「わぁっ!」
振り向きざまに3階へ向かう階段に躓き、咄嗟に手すりへ伸ばした片手を、どうやら俺を助けようとしたらしい一条に阻まれ、その拍子にバランスを崩した一条が上から倒れこんできて・・・・二人して階段へ崩れ落ちた。
痛ぇよ・・・すっごく痛ぇっ!!!
「くそっ・・・・」
「大丈夫、原田・・・?」
覆いかぶさったままの一条が俺の顔を覗きこんで聞いてくる。
「一条は?」
「僕は平気」
「そうか」
「うん」
俺に心配されて嬉しそうに一条が答える。
逆光ながら、ニッコリ微笑んだのが判った。
「だったらどけよ」
「ん?」
「重いんだよ・・・痛ぇし・・・」
「あ・・・でもぉ」
戸惑っている一条に、俺は構わず続けた。
「何いつまでも俺に圧し掛かってんだよ、このホモ野郎っ!」
同時に、生意気にも俺に絡ませているふてぶてしい足に数発蹴りを入れてやる。
「うわーん、ごめんなさい、ごめんなさい、叩かないでぇ〜!」
さすがに一条が飛び起きた。
「叩いてんじゃねぇ、蹴飛ばしてんだ!!」
俺も立ちあがり、その背中にもさらに蹴りを入れておくと、十分2メートル以上の間合い取らせて3階へ向かった。
畜生、背中もケツもすっごく痛ぇよ!
絶対擦りむいてる・・・ぐすん。
06
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