「原田〜」
後ろから一条が泣きそうな声を上げて付いてくる。
「それ以上近づくと絶交な」
「そんなぁ〜・・・」
「うるさいぞ」
自業自得だ馬鹿者。
「助けようとしたのに・・・」
「押し倒した奴が何を言うか」
「押し倒・・・なんて・・・」
声が小さくなって黙り込む・・・にわかに気色悪いオーラが後ろから漂ってくる気がした。
振り向くと、やや前かがみになって立ち止っているシルエットが見えた。
「反芻してんじゃねぇ・・・・!」
「わー、ごめんなさい、ごめんなさいっ!」
3階に着いた。
ここも2階と同じぐらいに保存状態がいい。
「本当に火事なんてあったのかよ・・・」
「綺麗だよね・・・・」
おそるおそる俺に近づいてきた一条が、やや離れたところで言った。
廊下を進む。
「軋みがないな」
「へぇ・・・結構シャレた照明器具使ってるんだね」
なんだと・・・?
一条に言われていつのまにか足元に落ちている自分の影に、今更気がついた。
光源を見上げる。
大正ロマン風とでもいうのだろうか。
丸いガラスシェードのレトロなペンダントライトが、天井から淡い光で辺りを照らしていた。
誰かがブレーカーを弄ったのだろうか・・・。
だが、これで少し歩きやすくなった。
さきほど階段で転んだときにどうやら捻っていたらしい足首が、少しジンジンと痛みかけていたので、非常に助かる。
先へ進んだ。
3階の廊下に並んでいる教室は、全部で7つ。
階段から見て手前の4部屋が普通教室で、トイレを挟み、図書室、旧第2理科実験室、そして旧音楽室という並びである。
問題となった火災の火元は、もともとこの旧第2理科実験室だったと聞く。
火の手があがり、奥の教室で授業をしていた音楽教師が逃げ遅れて犠牲となった。
そのとき彼が弾いていたのが「月光」・・・・いや、佐伯の話では、「月光」を弾いていたのは、女子生徒なんだっけ?
「しかし、こう明るいと肝試しになんねーよなぁ・・・まったく誰だよ、電気つけたの・・・」
「原田、原田・・・」
いつのまにか、また俺にくっついてきた一条が背後から声をかける。
まったく・・・。
「何だ」
追い払おうと思ったが、いい加減邪険にするのも気の毒に思われたので、普通に接してやることにした。
さっきの件にしろ、一条に悪気があったわけでないことは、俺にも判っている。
「あのね、驚かないで聞いてね・・・」
「だから、何だよ。いいから言ってみろ」
「さっきから誰かにつけられてるよ」
「・・・・・・・・」
「あのね、ちらっと見えたんだけどね、なんか茶色いチェックのジャケットに白いシャツと灰色のスラックスを履いた20代ぐらいの男の人でね、ちょっと足を引きずって歩いてる、先生みたいな人・・・」
「・・・で?」
「あのね、あのね・・・僕、ちょっと思ったんだけど、あれってここで死んだ音楽の先生なんじゃないかな・・・」
「一条」
「ん?」
「てめぇはここで待ってろ」
「へ?」
「俺は音楽室に行って写真を撮ってくる」
「原田?」
「できたら、そのままここにいろ」
「はい?」
「もういっそここから出てくんな」
「は、はい・・・・!??」
「さてと、携帯、携帯は・・・と」
「原田ぁ・・・」
後ろから一条がついてこようとした。
「ハウス」
「キャイン!」
一条が元の位置へ戻る。
よしよし。
07
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