*二日目:献花パレード見物*

この日は夕方にホテルのロビーへ再集合し、コロン通りで献花パレードを見物した。
黒いスーツ姿のブラスバンドが民謡風の音楽を演奏しながら先頭を歩き、続いて民族衣装と思われる装い・・・白いシャツにカラフルなベスト、横に房を垂らした太い布ベルトを巻いた男性達・・・これがファジェロなのだろう、彼らが旗を持って行進する。
最後に花束を持ったファジェラ達が延々と歩いて行った。
花束はいずれもカーネーションで、行き先はビルヘン広場。
午前中に見学した大聖堂のすぐ裏手にあって、そこに巨大な木枠のマリア像が作られているらしい。
パレードごとに彼女達の手に持たれているカーネーションが、数日かけて木枠を飾っていき、最終的にマリア様のドレスが完成するのだとか・・・大がかりである。
煌びやかな衣装を着たファジェラ達が赤やピンク、白などの花束を手に、延々と目の前を通過していく。
その華やかさに女子たちはすっかり興奮状態だ。
「すごく綺麗ね・・・あんなの一度でいいから着てみたいなぁ〜」
凛々しい道着姿が何よりもよく似合う江藤までもが、夢見ごこちにそう言った。
「そうか? 俺としては今イチ萌えないんだが」
ぶっちゃけミニスカ属性の俺的には、うちの女子の制服のほうがはるかに好みである。
というより、昨日のショッキングな事件のせいでファジェラはもはやトラウマキーワードだ。
あのあと峰と、約束通りにイルミネーションを見に行った筈なのだが、魔窟のような写真館で姉ちゃん達から嬲りモノにされ、衆人環視の元で辱められ、写真まで撮られたお陰で、その記憶がすっかり飛んでしまっている。
「記念にノビアへって言っていたから、たぶんお前のだろ」
・・・ホテルへ戻ってから、そう言って峰に手渡された真っ赤なカーネーションの花束は、結局峰の手に寄って、どこぞの土産物屋で買ってきたのであろう、大聖堂の塔の絵が描かれたマグカップに活けられて、今もホテルの部屋に飾られている。
それを見るたびに俺は、もうお婿に行けない・・・と、シクシク泣いているのだ。
「着たければあのクジラの向こう側・・・・原田、なぜそんなに近づく・・・ああ、そうか」
そう言って峰がまた俺の手を握って来た。
反対側の指先は、道路のど真ん中にある反捕鯨主義のファジャを指さしたままだ。
「違げぇよっ!」
当然、即座に握られた手を振り払う。
できればむしろ、そのまま折ってやりたかった。
「じゃあ何だ。どうでもいいが、足をどけてくれないか? そこには俺の足があるんだが」
「だから踏んでるんだよ」
足をギュウギュウと踏みしめた。
それ以上余計なことをくっちゃべったら、お前をヌッコロス。
「・・・難しいヤツだな。やきもちを焼くならもっとわかり易くしてくれないか?」
「何故そういう結論になるんだ・・・・」
茫然と峰を見ると、俺は急に脱力感に襲われて大きな溜息をひとつ吐き、大人しく足を退けた。
峰の思考回路はもはや異次元だ。
「ねえ、あんたいつのまに峰君とそういうことになってんの?」
「どういうことか知りませんが、なってません!」
俺に手作りのバレンタインチョコを毎年渡してくれるくせに、少しばかり腐っている江藤がボソボソと俺へ、それはとても嬉しそうに聞いた。
そしてバスに戻る途中、すぐ後ろを歩いていた江藤とパートナーの川口が、「三角関係か」と騒いでいたが、眠れないことになりそうなのでそれ以上考えるのは止めにした。
昨日、強姦する勢いで俺のパンツを引っ張っていた女といい、ちょっと女性不審に陥りそうな俺である。
夕食後、部屋に戻ってテレビをつけると、昨日から火祭り一色だった各チャンネルの番組構成が、少々変わっていた。
「リタだな」
先に風呂から上がって来た峰が、昨日からよく利用している窓際の椅子に腰を下ろして、上半身裸のまま髪を拭き始めた。
僅かに筋肉の割れたお腹のあたりが、痛々しくも真っ赤になっていることに気が付いて、どうしたのか聞いてみる。
「昨日写真館で締められたベルトの金具に反応したみたいだな・・・シャツ越しでもいつもこうなる」
相変わらず金属に弱い野郎だ・・・もっとも自業自得だから慰めてやる気はないのだが。
峰本人も慣れているようなので、話はそれで終わり二人でテレビを見る。
言葉は全然わからなかったものの、どうやら昼間に出演していた火祭り特別番組内でリタが何かを言ったらしく、同じフィルムが延々使われていた。
続いて流れたのが石見関連のニュ−ス映像。
「これって、俺達と一緒に飛行機に乗っていた人達じゃないか・・・あっ」
どうやら本日どこかでファンクラブイベントが開催されたらしく、そこに一条の姿も混じっていた。
そしてイベントにゲストとして招かれていたらしいリタの姿。
ラナのユニフォームを着た彼女がボールを蹴り、キーパー姿になってわざとボールを取り損ねる石見。
パラパラと拍手を送る、一条とファンクラブのみなさん。
「こんなことをして何が楽しいんだろうな」
「いや、まあ・・・こういうのはアイドルを招んだときのお約束だろう」
なるほど。
一条は例によって、リタのエスコートに駆りだされていたってわけだ。
俺は立ち上がってフロへ向かった。
だが、ただの石見関連のニュースだと思っていたこの映像が、一体何を意味していたのか・・・翌日、俺は知ることになる。



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