*三日目:花火見物* 食事時間になったが、一条が戻っているかも知れないと思うとレストランへ行く気になれず、頼んで峰にだけ行ってもらう。
だがその10分後に峰は戻って来た。
「外出許可をとってきた。外へ食いに行くぞ、準備しろ」
「峰・・・」
「さっさとしろ」
追い立てられるように準備をしてホテルを出る。
「なあ・・・一条、戻って来てたか・・・?」
トゥリア駅から電車に乗り、シャティバまで出てコロン方面へ歩く。
「なんだ気になるのか?」
「いや、別に・・・やっぱ、どうでもいいわ。悪かった変なこと聞いて」
「レストランにいた。俺をジロジロ見ていた」
「峰を?」
「ああ・・・正確には、俺の同伴者を探していたんだろうけどな。ここでいいか?」
峰が立ち止ったのは日本にも死ぬほど店舗がある、ピエロみたいな男が有名なハンバーガー屋。
「お前なぁ・・・」
「この時間、この場所・・・どこも人でいっぱいだろ。回転が速いのはこの手の店ぐらいじゃないか?」
「そりゃまあそうだが」
だったら、どうしてこんな混雑した場所へ俺を引っ張りだしたのやら。
トゥリアにだって飯屋ぐらいある。
「それともホテルに戻るか・・・今ならまだ食事に間に合うと思うが」
峰・・・まさかと思うが、俺を試してる?
その表情からは何も読みとれない。
峰はいつもの能面で俺の返事をずっと待っていた。
「いや、・・・いいぜ。入ろう」
「わかった」
峰は俺の手をとってハンバーガー屋へ入った。
そのときようやく気が付いた。
俺を部屋から追い立てるときには握られていた手・・・たった今の瞬間まで放されていたことに。
いつから峰は放していた?
入店から退出まで30分もかからずにコロン通りへ戻る。
「このまま少し歩かないか?」
峰が誘ってきた。
「いいけど、もうドレスは着ないからな」
即座に言い返す。
あっ・・・。
「なんだ?」
俺の視線に気が付いて峰が聞いてきた。
「いや、お前の笑顔・・・初めて見たから」
絵に描いたような微笑・・・そうとしか形容のしようがない。
非の打ちどころがない美しさ。
「惚れてくれてもいいんだぞ」
ドキッとした。
端麗で切れ長の双眸に、まっすぐと俺を捕えて。
微かに微笑を残したその唇で。
「ねーよ!」
「なんだ駄目なのか」
「ありえね〜」
「そろそろいいかと思ったんだが・・・」
「お前ってさ・・・考えようによっちゃ、最高に面白いよな」
糞真面目な顔をして、ああいう冗談が言える奴だと思わなかった。
なんだか峰が段々わかって来た気がする。
今まで冷たいことを言ったり、理解できないことを言ったりしてきた峰の言動の半分ぐらいは、ひょっとしたら彼なりの冗談だったのかも知れない。
「なぜ急に誉められたのかわからないが、とりあえず礼を言っておこう・・・だが、さっきの話はあれで終わりなのか?」
「そうか、峰は実は面白くて、いい奴なんだな」
きっとそうだ・・・俺は自分にそう言い聞かせていた。
ともすると、流されてしまいそうな・・・不安定な今の自分が怖くて。
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