*四日目:アスレホのオレンジ農園へ*

この日はバスでチューファ郊外のオレンジ農園に向かった。
場所はアスレホ市という隣の市で、途中までは空港と同じ方角。
陶器が有名であり、サッカーファンの間では、ナランハCFの練習施設がある街としても有名だ・・・そんな情報は俺にとって、ちっとも嬉しくないのだが。
それを教えてくれたのが、ガイドのペペ。
「ほら、あのあたり! 立派な照明設備が見える? あそこがナランハの練習場なんだよ」
誰も聞いていないのにマイクを使って興奮気味に言うもんだから、思わず悪戯心が沸いてしまった。
「ねえ、そんなことよりラナの練習場はどっちなの?」
「ラナ? そんなの聞いてどうするの?」
カッチーン。
そうかこやつはナランヒスタ(ナランハCFのサポーター)だったのか!
「まあ教えてあげてもいいけど、パロハボンだからねぇ・・・ここやチューファからは相当遠いし、電車も1時間に1本しかないようなド田舎だよ」
「けどたしか、ラナの練習場は最近移転したばかりだから、ナランハよりう〜んっと設備はいいんですよね。近くには古城があって、とても美しい場所だし・・・こんな道路と畑しかないような殺風景な場所とは違って、世界的に有名なトマト祭りもありますし」
「ああ、トマティーナね。確かにあれは有名だなぁ・・・エスパニア人にはマイナーだけどね」
「えぇっ、そうなんですか? 日本でも毎年テレビニュースでやるのに・・・」
ラニスタ対、糞ナランヒスタの舌戦に横槍を入れてきたのは江藤だった。
委員長としてこれ以上の口喧嘩は放置できないという判断なのか、それともサッカーよりもトマト祭りの方が興味はあるから、話題を変えたかったのか。
まあ考えるまでもなく後者だろう。
「あの祭りに来てるのは殆ど外国人だよ。まあエスパニア人も少しはいるけどね・・・そうだな、ラナの練習を見物に来る人よりは、多いかも知れないね」
畜生〜っ・・・!
完全に俺をラニスタと見抜いたらしいペペが、俺を見てニヤリとした。
「ラナってエスパニアではそんなに人気ないんですか? 石見選手は私たち泰陽市民のスターなのに・・・」
おっ、江藤が俺の味方に回ってくれた・・・思わぬ援軍だ。
「ああ、石見ね。彼はいいね〜僕らはいつも、なんでああいう選手がラナなんかに収まっているのかわからないねって言っているんだよ。ナランハに来ればいいのに」
おいちょっと待て、なんだその展開は。
「よくわかんないんですけど・・・ナランハって強いんですか」
会話が不味い方向へ・・・。
「そりゃあそうさ、ヨーロッパチャンピオンズリーグの常連だしね。国内リーグで何度も優勝してるよ」
出た・・・、これだからナランハサポは嫌いなんだよ!
「え〜そうなの? じゃあ移籍すればいいのに」
「大歓迎するよ」
「ざっけん・・・んぐっ」
「わかりやすい挑発に乗るな馬鹿者が、遊ばれてることも気付かんのか・・・」
口を掌で圧迫された俺は、心の中でペペに「表へ出ろ!」と叫んでいた。
まあ高速道路へ出るわけにはいかないのだが・・・。



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