*四日目:ラクレマ* 一条はエレベーターを呼ぶと3階にも11階にも寄らず、まっすぐに12階へ向かった。
そこはプールとバルしかない。
屋上へ出ると、夜風が気持よかった。
「さすがに誰もいないな・・・」
「今はシーズンオフだからね・・・あ、始まったみたいだね」
俺達はプールサイドに出しっぱなしの大きなデッキチェアーに並んで腰かけ、夜景を見つめた。
「綺麗だな・・・こんな風になるんだ」
一斉にファジャへ火がつけられ、チューファがまさに燃えていた。
「秋彦・・・そろそろはっきりさせた方がいいと思う」
一条がごく真面目な声で言った。
一条を見る。
視線がぶつかった。
「僕は君を愛している。君は?」
突然の告白だった。
そして俺にもそれが求められている・・・。
「そんなこと・・・いきなり言われても」
俺は視線を逸らした。
「リタのことで君があんなに何度もやきもちを焼いてしまうのは、僕が好きだから・・・違う?」
「だから・・・そう思いたかったら、思えばいいだろう」
一条が苦笑する。
「オーケー。今はそれで十分だよ」
肩を引き寄せられ、また口付けられる。
「僕だって今回は耐えがたかったよ・・・・まさか峰があんなに堂々と君に近づくなんて、予想外だった」
間近にじっと見つめられる。
「あれは・・・冗談だろ、俺やお前をからかうための」
「目を逸らした」
「えっ?」
「君は自分の意見に自信がないときや、逃げたいとき、すぐに目を逸らすんだよ・・・知ってた?」
「お前っ・・・そんなこと」
「いつもなら譲ってあげるところだけど、ごめんね・・・これだけは、ちゃんとはっきりさせたいんだ。峰は基本的には良い奴だけど、すごく賢い男だから油断ができない・・・絶対に本心を見せないしね」
「それは確かに言えてるな・・・」
「出来ることなら君の傍から彼を排除してしまいたい」
「おい、一条・・・」
なんてことを言い出すんだ。
「けど、さすがにそうはいかないしね・・・君は君で、いつまでも恥ずかしがって、絶対に僕への気持を口にしない」
「だからっ・・・察しろよ」
「うんわかってるよ・・・けどね、そろそろ先に進まない? 僕は確証が欲しい。そして、君自身が安心できるように」
そう言って一条がもう一度唇を重ねて来る。
それが頬、顎、首筋と降りながら、俺のシャツの裾をベルトから抜き出した。
「おい・・・お前、まさか・・・また」
俺の誕生日の次の日、俺達は一度だけそういうことをした。
けど、俺は怖くて結局途中で逃げ出した。
優しい一条は俺を最後まで追い詰めたりはしなかった。
「秋彦、愛してる」
「お前な・・・ずるいぞ」
再び唇を重ねられる・・・そして深く。
頭がジンとしかけた所で一条がキスを中断する。
「ちょっと待ってね・・・このままじゃ難しいから」
そう言って一条はデッキチェアーのリクライニングを倒すと、俺を横たえて上から圧し掛かって来た。
しばらくそのまま抱きあい、くりかえし唇を重ねる。
角度を変えながら互いの唇を啄ばみ、舌をからめ合い、自分から舌を差し入れ、先で上あごを舐めてやったり、差し入れられた一条の舌を強く吸ってやる。
「だんだんいい感じになってきたね」
「うるせぇよ・・・」
目が潤み始めていた。
一条は俺の服を脱がせながら、前と同じように丁寧な愛撫へ行動を移す。
頬、耳、首筋、鎖骨、胸・・・以前の感覚を思い出し、俺は早くも息が上がった。
俺の身体は、あのときの快感をちゃんと覚えていた。
「一条・・・もう、やめ・・・」
堪らず、一条の髪に指を差し入れて、ギュッと掴む。
「まだだよ・・・もっと快感を高めて・・・素直になってごらん・・・」
そう言いながら一条が俺のベルトへ手を掛ける。
「嫌だ・・・」
またしても俺は、反射的にその手を払いのけようとした。
だが。
「駄目」
今度はその手を阻止された。
一条は俺の手首を掴んだまま、押さえつけるでもなく、放すでもなく。
「いち・・・じょう・・・?」
そのまま俺の出方を待っているようだった。
俺は拒もうとしたその手を引っ込める。
一条が軽く息を吐いて笑顔になると、俺の唇にひとつキスを落としてくれた。
「ありがとう」
そう言ってベルトを外し、ファスナーを下ろされる。
「俺ばっかり・・・ずるいだろ」
力のない声で文句を言うと、一条がクスクスと笑った。
少し安心する。
不思議だ・・・どうしてこいつの笑顔ひとつで、俺はいつも簡単に安心してしまうのだろう。
「それもそうだね」
そう言うと一条は一旦立ち上がり、身につけているものを素早く全部脱いだ。
驚くべき潔さだった。
だが、直後に俺は底知れぬ不安に突き落とされる。
「秋彦・・・じゃあ君も」
そう言いながらこちらを振り向いた一条の・・・。
「ちょっ・・・タンマ」
「タンマはもうなし」
一条が再び圧し掛かって来る。
自重に従って容易に俺と接触する彼の物・・・ビクリとする。
「いや・・・どう考えても、無理・・・」
だってお前、・・・それ!
「優しくするから」
せつない声で宥められる。
「そういう問題じゃなくて・・・物理的に、その・・・サイズがだな・・・」
185センチを超える男のものが、そうそう小さい筈はないだろうと覚悟はしていたが・・・初めて目にする少しだけ反応し始めた一条のそれは、想像をはるかに超えていた。
絶対に死ぬ。
「秋彦、お願いだ・・・」
不意に抱きしめられた。
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