「一条・・・?」
「僕だって精いっぱい待ったつもりだよ・・・でもほんの数日間、君の隣にいられなかった、たったそれだけのことで、僕らはこんなにお互いを信じられなくなっていた。同じ場所にいてさえこうだ。こんなことじゃこの先・・・・」
そこまで言いかけて一条は、僅かに息を呑みながら突然、固く口を噤んだ。
「一条、一体どうしたんだ?」
声へ表れた剥き出しの感情・・・そんな一条は珍しい。
余裕がない・・・?
「君とどうしてもセックスがしたい」
今度はぐっと抑えた声で、ストレートに一条は要求してきた。
「それは・・・俺だって、出来れば・・・」
出来ればしたい。
そう考えている自分に、愕然とした。
俺は一条を受け入れられる・・・ただ、未知の体験に恐怖心があるだけだ。
「優しくする・・・」
額を合わせ、黒目がちなあの瞳で熱っぽく俺を間近に見つめて、そう言ってくれた一条。
「本当に・・・約束しろよ」
「うん。ありがとう」
一条が口づける。
「Te amo...」
テ・アモ・・・愛してる。
初めて彼と触れ合ったあの夜、彼が俺に贈ってくれたその言葉。
あれ以来俺がいつも身につけている、香水の名前と同じその言葉は、今なお俺の心を揺さぶり、甘く痺れさせた。
ズボンと下着を剥ぎ取られ、俺も全裸になる。
隠すもののない恥ずかしさや心もとなさで、俺は落ち着かなかった。
一条はまた俺にキスをすると。
「優しくする」
ふたたび宣言した。
一条は本当に慎重だった。
何度も何度も、数えきれないほどキスをされ、身体じゅうを手で、唇で、舌で愛撫される。
執拗とさえ言えるようなその前戯で、あっというまに俺は達した。
自分だけ弾けたことが恥ずかしくて顔を背ける。
すると一条はまたもやキスで、不貞腐れて尖らせた唇を追いかけて、それから俺の腰を抱え直すと、今度は後ろに指を伸ばしてきた。
初めてその場所へ誰かに触れられる羞恥と、そこをこれから引き裂かれるかもしれない恐怖心が、同時に俺へ襲いかかる。
俺は一条の厚い胸に手を添えて、彼の注意を引いた。
「秋彦?」
後ろへ指を添えたまま動かさず、一条が俺の顔を覗きこんで来た。
本当に怖い。
絶対痛い。
ひょっとしたら、怪我をする。
それでも。
「一条」
俺はお前を受け入れたい。
「秋彦・・・」
じっと俺の出方を待っていた一条が、もう一度俺の名前を呼んだ。
「俺・・・・お前が初めてだから・・・」
彼へ正直に告白する。
声が、完全に震えていた。
「ありがとう」
そう返事をして、一条はまた優しいキスをくれ、そして俺の、次に自分のペンダントの石・・・揃いのオレンジストーンへ素早く口付けた。
何に対するありがとうか・・・そこまで俺に考える余裕は、このときなかった。
一条がふたたび俺の腰を抱え直す。
そしてゆっくりと、俺の中へ指を入れて来た。
「んっ・・・」
たった1本の指の異物感で、俺は顔を顰めてしまう。
痛い・・・。
「秋彦・・・大好きだよ・・・。秋彦、君だけだ・・・秋彦、愛してる」
耳元で何度も囁きながら一条が頬に、耳にキスをして、一度弾けたものを再び慰めてくれた。
大丈夫・・・大丈夫・・・大丈夫。
俺にはそう言ってくれているように聞こえた。
身体の力を抜き、一条に身を任せる。
ゆっくりと時間をかけた、丁寧な愛撫ののち、すでに張りつめていたものを押し入れられた。
「・・・・!!!!」
限界を超えた激痛・・・・声も出なかった。
どこかで花火が上がり始める。
漆黒の闇にチカチカと弾ける火花・・・幾度も爆発し、真っ赤に燃え上がる炎。
この身を激しく揺るがし、引き裂き、メラメラと焼きつくされる。
その後の事はぜんぜん覚えていない。
なのに。

僕は君の最初で最後の相手になれるように努力する。
そして、君が僕にとっても、最後の恋人になるって、誓うよ・・・。

もうろうとした意識の中で、せつなくなるような声がそう言っていたことだけ、俺は覚えている。
穏やかで優しい彼の声。
俺を好きだといつも言ってくれるその声。
おそらく後にも先にも、俺がただ一人愛する男の声。
なのに・・・最後の恋人? 
お前にとっては、最初じゃ・・・なかったんだな。
そんなことを考え、なぜだかとても悲しくなって、俺は涙が止まらなかった。



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