授業終了後、約束通りに俺は峰を伴って家路へ着いていた。
「なあ・・・やっぱり今日からじゃないと駄目なのか?」
念のために、もう一度確認してみる。
「約束してから、既に二週間以上も放ったらかしじゃないか。本当にやる気があるのか?」
「でもさ、俺だってそれなりに頑張ってるんだぞ。最近は授業中にちゃんと聞いてるし」
俺が寝ずに起きているだけでも大した成長なのだと、俺は自分でよく知っている。
だから俺としては、個人的に自分を手放しで褒めてやりたいぐらいだった。
「授業中に授業を聞くのは、当たり前というか学生として最低限のことなんだが・・・。それに帰る直前にお前は、5限目の英IIのノートを直江に見せてもらっていただろう。あれでお前にやる気があると、なぜ俺が判断できると思うんだ」
「あ、あれはだから・・・休み時間にちょっと、突発的な用事が・・・」
言いにくいことを聞かれた気がして、俺は焦った。
「用事の内容を追及する気はないから、そんな顔をするなよ。・・・俺が言いたいのは、そういうことではない。黒板に書かれていることは授業中に写していて当然じゃないか。自分でそれなりに纏められるなら、必ずしも写す必要はないが、そうじゃないなら、ちゃんとすぐに書いておけ。欠席しているわけでもないのに、人のノートを丸写しするなんて、最低だぞ」
「はい・・・反省してます」
まさかの説教タイムだった。
「しかも、なぜ直江なんだ」
「は?」
「そういうことは今度から俺に言え」
「へ?」
「いや・・・言っていることが矛盾しているな、これじゃあ。やっぱり今のは忘れろ」
「何だよ・・・意味がわからねえぞ」
「どこへ行く気だ。お前んちはこっちだろ」
「ああ、そうだった」
遊歩道の出口付近で峰に手を引かれ、俺は自分の家がある住宅街へ、なぜか彼に連れて行かれた。
1分程で家に着く。
鍵を開けて、誰もいない家へ峰を招き入れた。
「お邪魔します」
丁寧にそう言って峰は上がると、後ろを向いて膝を突き、自分の靴を揃えて邪魔にならない隅の方へ寄せ、その隣に俺の靴も揃えていた。
「お前、つくづくよく出来た子だな」
ちょっと感心した。
「お前がいい加減なだけだ」
この捻くれた性格と口の悪ささえなければと、悔やまれる。
峰を伴って二階にある自分の部屋へ向かった。
「どうぞ〜」
軽い気持ちで峰を招じ。
「・・・はあー」
背後から大きな彼の溜息を浴びた。
「あの・・・何か、お気に召・・・って、お、おい勝手に何開けてんだよっ!」
峰は即座に入り口で鞄を下ろすと、その足でまっすぐにクローゼットへ向かい、許可なくそこをフルオープンしやがった。
「これはまた見事だな」
俺は横から手を出して、バタンと音を立てながらクローゼットを閉める。
冴子(さえこ)さんがいたら、すぐに二階へ飛んで来て、五月蠅いと怒鳴られていたはずだ。
「何の真似だ一体!」
これもまた説教モノの大声だったが、それどころではない。
「エロゲーのタイトルが書かれたDVDやCDと、カラフルな背表紙の本が、作品別ジャンル別に分けられ、それらが五十音順に並んでいた」
一発でそこまで見分けたてめえの洞察力を支えている、その確かな知識は、どこから来るんだと突っ込みたかったが、峰はその暇さえ与えてくれなかった。
「勝手に開けるな・・・って、おい、お前今度はどこ・・・わわわっ、止めろこらっ・・・」
PCの電源はこまめに切るか、最低限、覗き見防止のパスワードは設定しておきましょう。
「ゲームの攻略サイトにエロゲーメーカーのオフィシャルサイト、日本とエスパニアのサッカーサイトにエスパニア語を選択済みの無料翻訳サイト、それと巨大掲示板のゲーム板にサッカー板、あとは石見の公式ブログか・・・お前の脳内がまるきりここに凝縮されているな」
「ふざけるな、PCのお気に入りを無断でチェックするのは、プライバシーの侵害だろうがっ! ・・・しかも言ってる傍から、なに勝手にゲームまで起動してんじゃ、ボケ〜!」
見られて困るDVDは、遊び終わったらすぐにドライバーから取り除き、無難なケースへ収めましょう。
「分岐点ごとにセーブか」
「そ、それは当然だろうが・・・」
エンディングのたびに、いちいち最初からやり直せっていうのかよ。
んなことしてたら、1年かかっても終わらんわ!
「日付が連続している。しかも時間帯が夜の10時〜深夜の2時に集中しているぞ。昨夜に至っては3時35分か・・・」
「うぐっ・・・・」
勉強していないのが丸バレである。
「これじゃあ、5時間目まで体力が保たなくて当然だな。むしろ古文の授業で寝なかったことを褒めてやりたい」
「ま、まあ和泉先生の授業で寝てたら、加賀先生に筒抜けだし・・・」
和泉教諭はC組の副担任で、鬼の加賀純二(かが じゅんじ)教諭はC組担任である。
あの二人はプライベートでも仲が良い。
「糞退屈な古文の授業で不幸にも落ちた奴が、次の体育で扱かれるのはお決まりのコースみたいなもんだからな・・・よし、全部消去っと」
「どぁあああああああああああああああああああっ、てめぇ何してんだよっ!!!!!」
「さすがにコンプまで150時間を超えるこのゲームを、今の時期に1からやり直す気力はないだろう」
「うわあ・・・・信じらんねぇ・・・また孤島の病院脱出シーンからやり直しかよ・・・」
「もっとやる気を殺いでやろうか。実は主人公が異能に目覚めたきっかけでもある、7年前の誘拐事件の犯人は・・・」
「てめぇ、それ以上言ったら殺すっっ!」
「それとな、白髪の少女が出てきたら、鬱陶しくても話を聞いてやれ」
「え、そうなのか・・・? そうすると何が変わるんだ?」
「妹ルートに入る」
「趣味押しつけてんじゃねえっ!」

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