『薔薇の真実〜Rose Garden弐』 「俺、副委員長になったんだ」 ベッドへ組み敷かれていたのは僕だった。
1ヶ月ぶりに会った彼、原田秋彦(はらだ あきひこ)はそう告白した。
お風呂上がりで上気した頬や、首筋に張り付く少し明るい長めの髪がしどけなく、色香に誘われるように彼の隣へ腰を下ろす。
水色のカバーが掛かったシングルベッド・・・・そのシーツの手触りやスプリングの反動を、僕、一条篤(いちじょう あつし)は経験でよく知っている。
何も着ていないしなやかな上半身から立ち上る、石鹸の香りや体温を至近距離で感じとり、このままベッドへ背中を押し付けたい欲求と闘った。
滑らかなこの肌がいかに敏感で、その奥がどれだけ温かく柔らかで、甘美な快感を僕に与えてくれるのかは、ベッドの具合以上にさらによく知っている。
「委員長は?」
だが僕の問いかけに彼は答えを返さず、逃げるように立ち上がってクローゼットへ向かった。
一人ベッドに残される。
君は今、逃げたね。
間もなく僕の不安は的中した。
圧し掛かってくるように秋彦が僕の両肩へ手を突き、じっと見下ろしてくる。
大きな目は色っぽく瞳を潤ませ、薄く開かれた唇は、激しいキスでルージュを引いたように赤く腫れて湿り気を帯び、熱い吐息がそこから吐き出される。
「秋彦・・・きみ・・・」
男にしてはほっそりとした綺麗な指先が震えながら、僕の下肢へ伸ばされようとしていた。
長い睫毛を微かに震わせて細められた彼の双眸は、明らかな情欲に彩られる。
・・・・奉仕しようとしてくれているのか?
そう考えた瞬間、身体じゅうの血液が急激に一点へ集まってゆくのがわかった。
秋彦とは既に何度かセックスをしていたし、過去に付き合った相手から口淫を受けた経験がないわけでもない。
だが、これまでにも秋彦との関係を少しずつ変化させる度に感じてきた、同じ興奮がこの時の僕を襲っていた。
初めてのキス、ペッティング、挿入を伴うセックス・・・・かつての恋人たちとのいずれのときにも感じられなかった大きな歓喜がいつもそこにはあった。
妖精と見間違えるほど可憐だった少年・・・その彼が目の前でどんどん変化してゆき、僕の手のうちに落ちて花を咲かせ花弁を散らし、花芯の甘い蜜に吸い寄せられて、そこから離れられなくなる。
秋彦が、自ら僕を求めて感じさせてくれる・・・・僕が赤く染め濡らしたその唇の狭間に、自分の物が含まれる・・・・想像しただけで勃った。
ところが、その興奮を切り裂いた不快な電子音は、案の定あの男が鳴らした物だった。
「あいつらだって別に俺達のこと閉じ込めようとしたわけじゃないし、お前だって被害者・・・」
一瞬で全てが理解できた。
秋彦がなぜ委員長の名前を明かそうとしなかったのか。
日中、彼が誰と、密室に二人きりで過ごしたのか。
それをなぜ僕に黙っていたのか。
峰祥一(みね しょういち)。
彼は中学の頃からのライバルであり、昨年城陽(じょうよう)へ編入してくるなり、秋彦の注意を引きつけた男。
容姿端麗で学業優秀な彼だが表情は乏しく、感情を表に出さないぶん、何を考えているのかはわかり辛い。
だがいつからかその峰が秋彦に接近するようになり、僕に対して宣戦布告とも言える行動をとったのは修学旅行中のこと。
秋彦とパートナーを組んだ峰はその立場を最大限に利用して彼を連れ回し、門限を破り、「秋彦」と呼び捨てて派手に僕を挑発してくれた。
しかし結果的にそれが僕に、なかなか踏み出せなかった大きな一歩を・・・・秋彦と身体の関係を結ぶきっかけになりもした。
そして、お互いの気持ちを確かめ合ったことで、僕はさらにその先を考えるようになっていた。
02
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