15分程度で学校へ到着する。
「ほう、実行委員会やるなあ・・・」
校門の近くに作られた、高さ5メートル程もある緑の物体を見てまず驚いた。
ワイヤーに月桂樹を絡ませて造られたアーチのすぐ両外側には、古代遺跡風の円柱が建っており、それぞれの先端にファイバーライトが仕掛けてあって、点灯すると燃え立つような赤い炎が揺らめくようになっている。
つまり、聖火台のイメージだ。
アーチの20メートルほど向こう側には、一般的な女性の等身大と思われる勝利の女神、ニケが台座の上で胸を張り、翼を広げて今にも飛び立とうとしている。
校門から入って来る者の目には、ちょうど月桂樹のアーチのまん中に、ニケが見えるようになっていて、広々とした明るい空間に立つその様子は、いつか英一さんに見せて頂いた、ルーブル美術館のサモトラケのニケ像を、なんとなく彷彿とさせた。
「昨夜9時ぐらいまで残って完成させたらしいからね・・・美術部員も全員出動で最後まで付き合ったらしいわよ。」
「凄えな・・・」
「早く点灯したところを見たいわね。・・・さてと、この辺でいいかな」
そう言って江藤が、芝生の上に荷物を下ろす。
俺もその隣に鞄を置くと、冴子さんから預かったキャリーケースを開けて三脚を取り出した。
「貸してもらうのに、持ってもらって悪かったわね」
「気にすんなよ。この辺りでいいか?」
「あ・・・せっかくだから、自分で広げていいかな。使い方覚えないと意味ないし」
そう言うと江藤は俺から三脚をそのまま受け取り、安定の良い場所を探して辺りをウロウロし始める。
「脚の長さが調節効くから、適当に広げていいぞ」
「あ、・・・そうか」
江藤がその場に立ち止まり、三脚を伸ばして固定し始めた。
それを安定させると、今度は自分のデジタル一眼レフをセットする。
とくに問題はない様子なので、俺は邪魔にならない場所へ下がると、三脚と一緒に冴子さんが持たせてくれた包みを開けた。
紙袋の封を広げ、ラップに包まれたサンドイッチを頬張りながら、早くも撮影を始めた江藤の後ろ姿を見守った。
目の前のグラウンドでは、俺たちよりもさらに早くから登校している体育祭の実行委員達が、着々と準備を進めている。
その様子を江藤はアングルを変えながらカメラに収めていた。
カツサンドにハム卵サンド、ポテトサラダサンド、ローストビーフサンド・・・何時に起きて料理をしてくれたものやら、冴子さんのお弁当はいつになく気合が入っていた。
朝からこのボリュームは大きすぎるので、当然昼飯のために作ってくれたのだろうが、江藤のお陰で朝食を食いっぱぐれていた俺は、結局冴子さんのサンドイッチを綺麗に平らげていた。
「ごちそうさまでした」
手を合わせて冴子さんに感謝する。
「・・・・ほう、こちらも」
ふと目を開けてグラウンドの方角を見ると、そこには思いがけないデザートが用意されていた。
俺は目の前でふわふわと踊っている、真っ赤な苺にも手を合わせる。
「いただきます」
すると、我がクラスの体育祭実行委員であり、本年度実行委員長の山村早苗(やまむら さなえ)が俺達に気付いて、グラウンドから大きく手を振ってきた。
「早苗〜、お疲れ様〜」
江藤が撮影を止めて手を振り返すと、山村がローラーを持ったままこちらへ歩いてきて。
「里子〜、気をつけなさいよ〜。後ろからパンツを拝まれてるわよ〜」
山村の言葉に俺と江藤は、それぞれ顔を引き攣らせて固まった。
その直後、俺の顔が江藤の見事な回し蹴りに沈んだことは、言うまでもない。



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