『真っ向勝負のフラッグ戦』

「けれど、もうすぐフラッグ戦だよなぁ」
言っている傍からスピーカーからアナウンスが流れ、俺達は集合場所に整列する。
「あ、原田君、ちょっと」
「ん?」
体育祭実行委員の山村が、つかつかと俺に近寄って来た。
「悪いんだけど、午後の仮装障害物競争出てくれないかな」
「げっ・・・」
よりにもよって仮装障害物競争。
「ようやくさっき鍋島君と連絡がついたんだけど、調子が悪いみたいで結局欠席になるらしいのよ。原田君、今日はこのあとフラッグ戦だけでしょ?」
「まあ、そうだけどさ・・・」
俺は朝イチの200メートル走に出場していたから、このあとのクラス全員参加のフラッグ戦を終えれば、それで予定が終了する。
他にも午前中で終了する男子種目があるにはあるが、よもやトライアスロンで走る連中に、さすがにもう1種目出てくれとは、頼みにくかろう。
無論、俺以外にも同じ種目に出た奴はいるし、彼らもこのフラッグ戦を終えたら、あとはフリーだ。
だからといって、そっちを当たってくれというのは、ちょっと言い出しにくいし、それじゃあただの我儘になってしまう。
「まあ、峰君が出てもいいとは言ってくれてるから、無理そうなら彼に頼んでみるけど・・・」
峰は午後にクラス対抗リレーが控えており、それは仮装障害物競争の二つ前にある種目だ。
つまり仮装障害物競争を終えた直後、既に集合しているクラス対抗リレー組に合流するぐらいの急な流れになる。
「いくらなんでもそりゃ無茶だろう」
おそらくクラス委員の責任の範疇で言ったのだろうが、これはさすがに頼むわけにはいかない。
「となると、あと頼めそうなのは・・・」
山村が名簿を捲り始めた。
名前の隣に各自の個人出場種目が手書きで記入してある。
彼女はこんなものまで自分で用意して、火急の事態に備えていたのだ。
頭が下がった。
「俺が出るよ」
これ以上手を煩わせるわけにはいかない。
俺だって一応クラスの副委員長だ。
こういうときに自分から手を挙げなくてどうする。
「ほ、ほ、ほ、本当・・・!? 本当に出てくれる?」
3回も「ほ」を繰り返しながら確認してきた。
眼鏡をかけた双眸が心なしかキラキラと輝いている。
安心というより、これはなんというか・・・期待に近い。
予想していた反応とは、あまりにかけ離れていた。
「ああ、・・・だって午後って他に予定ねえし、まあそのぐらいは」
っていうか、自分で頼んでおきながら、この思いがけないプレゼントを貰ったような高揚した反応は何だ。
「もう一度確認するけど、仮装障害物競争だよ。“原田君が”出てくれるのよね、”仮装障害物競争”に? 間違いない!?」
“原田君”と“仮装障害物競争”を、山村ははっきりと強調していた。
気のせいか、周囲の女子たちにざわっとした空気が流れる。
「あ、・・・ああ。つうか、だからそれを頼みに来たんだろ?」
「ありがとう!!」
そう言って山村は突然、名簿を持ったまま両手で俺の手をひしっと握りしめると、そのままぶんぶんぶんと上下に3度振り下ろし、続いてダッシュしながら大会運営委員席へ戻って行った。
「あ、山村フラッグ戦・・・」





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