『これより3年生による、クラス対抗フラッグ戦が行われます。選手入場』
場内アナウンスが流れ、先にC組が4列縦隊で行進し、そのまま白線が引かれたサッカーグラウンドの南半分に整列した。
続いて俺達E組が同じく4列縦隊で行進する。
『このフラッグ戦はクラス対抗によるトーナメント方式で行われます』
引き続き簡単なルール説明が行われる。

・フラッグ戦ルール説明を読む(別ウィンドウで開きます)
*注意*文字のみ。全1ページ。(2kb 1098文字)



『1回戦は3年C組対E組の対戦です。スタートは1分後ですので、各チームとも準備が出来次第配置に着いて下さい』
2年男子の実行委員によるルール説明が終了し、俺達は適当にフィールドへバラける。
説明通り、ゲーム自体の基本的な骨子はペイント弾の投擲のみで、サッカーフィールドを使用したドッジボールや雪合戦みたいなものだ。
あとは相手フラッグを倒せば勝利。
単純明快な肉弾戦を予想していた。
しかも対戦相手のC組は家政課クラスの為、女子しかいない。
不戦勝も同然だとタカを括っていたのだが・・・。
「これより直前のブリーフィングを開始する。各分隊別に、分隊長の指示に従え」
「はいっ」
何・・・!?
C組担任、3年男子体育担当及び、体育祭実行委員顧問の加賀純二(かが じゅんじ)教諭の声が、C組側のベンチから聞こえ、女子用の赤いジャージに身を包んだ生徒達が、大きく二つの塊に分かれた。
その動きはさながら、訓練された兵士のごとく。
「おい・・・一体、あれは何なんだ?」
「俺が知るわけないだろ・・・」
地面に落ちている白い粉が入った、お手玉のようなボールを拾い、手でモミモミしていた直江に聞かれ、俺は適当に応じた。
「それじゃあ雪島ヴァルキリーズ、気合を入れて行くわよ!」
「おう!」
どうやら分隊長らしいC組の委員長雪島朱音(ゆきじま あかね)による力強い掛け声と、それに応じるヴァルキリー達の声ともに、円陣を組んでいた合計12名の生徒達が、対面するハーフコートに散らばった。
だが、基本的に2名一組の最小形態である塊を保つようだ。
どうでもいいが、雪島ヴァルキリーズって、何かのゲームの影響強すぎだろう。
「何を考えているんだ、あいつらは・・・」
峰が低く呟く。
「そういえばC組は、連日遅くまで残って模擬戦してるって噂だったっけ・・・適当に色玉投げる練習してるだけかと思えば、まさかこうくるとはね」
そう言って江藤も地面のペイント弾を拾い上げると、スナップを利かせながら手の上で弄び、最後に「面白いじゃない」などと締めくくってみせる。
こちらも気合十分というようである。
「以上だ。玉瀬分隊、位置に付け!」
「はいっ」
遅れて残り14名の生徒がペナルティエリア付近に散らばる。
こちらはサッカーで言えばディフェンダー及びゴールキーパーと言ったところだろうか。
『それではゲームスタート!』
アナウンスとともに主審が吹くホイッスルが高らかにグラウンドへ響き、一斉に選手達が動き出した。
「くらえぇえええええっ!」
大森がピッチを駆けあがりながら、手に集めたペイント弾をやみくもに投げまくる。
「甘い、甘いぞ、大森君! それっ!」
対峙しかけた浅井深琴(あさい みこと)が地面へ手をつき、ポニーテールを揺らして側転しながら、華麗にペイント弾を躱す。
そのとき、大森が投げた弾を地道に回収して投擲したのは綾峰千鶴(あやみね ちづる)だ。
「ガールスカウトのレンジャーを舐めないで欲しいわねっ・・・・!」
「HIT!」
綾峰のペイント弾が見事に胸へ当たり、大森は掻き集めた弾を地面へ置いて退場した。
「畜生・・・なんだよ、あの動き」
「げほっげほっ、止めてよもうっ」
石灰が付いた手をパンパンとはたきながら大森が通り過ぎてゆき、その傍にいたうちの島津八重子(しまづ やえこ)が、咳き込みながら文句を言う。
「そういや浅井って元新体操部だっけな・・・なんのアトラクションが始まったのかと思ってびっくりしたよ」
「原田君、ぼうっとしてないで、それ拾って!」
「おっと・・・」
「ひぃっ・・・何すんですか!」
1メートル程目先の地面に落ちていたペイント弾を拾おうとして、その瞬間、目の前を掠めた鋭い動きに、咄嗟のバックステップで打撃を避けた。
屈みかけた俺に回し蹴りを食らわせようとしていたのは、C組の三津木芽衣(みつき めい)だった。
「貴様、なかなかやるな」
「はぁどうも・・・っていうか、暴力行為は禁止でしょーが! おい、審判ちゃんと仕事しろよ」
すると腕章を巻いた、やたらデカい1年男子の体育祭実行委員が、ホイッスルを吹きなが駆け寄って来て、イエローカードを突きつける。
「へへっ、ざまーみ・・・って何で俺だよっ!?」
「先輩、それ以上侮辱すると、次は退場になりますよ?」
このゲームで主審を務めていた1年の実行委員は、ホイッスルを口から放して平然とそう言うと、そのままゲームを続行させた。
「どうやら審判侮辱行為をとられたようだな。原田諦めたほうがいい。こういうのは審判の印象を悪くした方の負けだ」
峰が俺の肩をポンポンと叩いて通り過ぎて行く。
「納得いかねぇ・・ってうわっ、こらっ・・・痛ぇっ!」
目の前から拳を2発突き出され、それを避けようとして両腕を身構えたところで、今度は背中に蹴りがヒットする。
「どうした原田秋彦、どこもかしこも隙だらけだぞ!」
「そちらこそ、すばらしい闘争心ですね」
三津木はたしか帰宅部だった筈なのに、この身体能力の高さは異常だ。
「なに。たかだか空手三段の允可状を持っているだけだよっ・・・」
息も切らさずにそう言いながらも、パンチ、キックのコンボは鳴りやまない。
っていうか武道家が素人相手に、武術を使っちゃいけないだろうが!
「だから暴力はやめろって・・・おっとっ」
「反射神経は悪くないようだが、まるで反撃なしか。貴様、それでも男か」
次々と攻撃を繰り出して来る三津木に、俺は防戦一方だった。
「誉めてくれてありがとう・・・。だって、女の子に手をあげちゃいけませんって、小学校のときに教えてもらったもん・・・あなたがその女の一人と認めているからこその、紳士的配慮なんです」
完全に負け惜しみだが・・・こんなのまともに相手をしても勝てるわけがないし、そもそも暴力はルール違反の筈だし。
何より、たとえ空手有段者でも三津木はやっぱり女の子だ。
「なるほど。だが、いつまでそんなことを言っていられるかな・・・せいっ!」
感嘆符とともに、綺麗に地面を蹴りあげた三津木が、素早い回転を見せながら、俺のこめかみを目がけて高々と足の踵を当てにきた。
その瞬間、俺は左肩に強い衝撃を受け、バランスを崩して地面に倒れる。
「HIT!」
「な、なに・・・!?」





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