『裏庭の揉め事』

サッカー部の部室の前あたりに、島津が立っていた。
少し不安そうな顔をして、彼女が俺を見ている。
「どうかしたのか?」
俺は通用門前から続いているアスファルトを、6メートルほど歩いて島津の目の前に止まり、彼女に聞いた。
島津は手に紙屑を丸めて持っている。
クレープの包み紙だ。
屋台で売っていた物だろう。
「なんかね、あっちで他校の子が揉めてるみたいなんだよぉ。先生呼んだ方がいいかなぁと思ったんだけど、告げ口とか思われても嫌だし。・・・原田君ちょっと見て来てくんないかなぁ」
部室棟の裏にある銀杏並木のあたりを、島津はまっすぐに指さして言った。
どうやら屋台でクレープを買ってきた彼女が、落ち着ける場所を探して部室棟の裏庭に行ったものの、そこでトラブルの現場へ鉢合わせてしまったようだった。
「マジかよ・・・」
巻き込まれるのは御免だが、だからと言って放置も出来ない・・・そう思ってとぼとぼと、クレープを食べながら歩いていた島津が、俺を見つけて声をかけてきた・・・そういうところではないかと思われる。
まあ、女一人なら、それが賢明だろう。
とはいえ、面倒事に巻き込まれるのは、俺だって御免だ。
御免なのだが、頼られている以上は無視できない。
「ヤバそうな雰囲気なのか?」
しかし、腕っ節に自信もないのに、下手に首を突っ込むのは得策じゃない。
人数が多そうなら、加賀先生なり、峰なりを呼びに行った方がいいだろう。
「不良っぽい子が、小さい子苛めてる」
「子供を苛めてんのかよ!」
さすがにそれは、すぐに止めないと駄目だろ!
走り掛けた俺を、島津が引きとめた。
「あっ、そういう意味じゃなくて、身体が小さな子。制服来てないからわかんないけど、多分あたしたちと変わんないぐらいの年齢の子。不良は城西の子で、もう一人はなんかウェイターみたいな格好してる」
銀杏並木へ向かってゆっくりと歩きながら、島津が教えてくれた。
「ああ、そういう意味か・・・」
びっくりした。
「原田君、行けそう?」
島津が立ち止って聞いた。
銀杏並木の木立が、少し見える。
どうやら戻るのが怖いようだった。
俺は考える。
実質的に相手は一人・・・それなら、なんとかなるかも知れないが。
「そうだな・・・その不良って強そう?」
念のために聞いておく。
しかし・・・。
『女子飴食い競争に出場の選手は・・・』
そこで、部室棟の前に設置されたスピーカーから、山村のアナウンスが聞こえてきた。
飴食い競争は、島津の出場種目だ。
「あ・・・ごめん。あたしもう行かないと・・・。もしも原田君の手に負えないみたいなら・・・」
「いや、たぶん大丈夫だ。心配しないでお前は行ってこい」
「うん。ごめんね」
「気にすんな」
島津を見送り、とりあえず俺は一人で銀杏並木へ向かった。




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