翌日、どうにか復活した俺は学校へ登校したが、代わりに一条が休んでいた。
「また家の用事か?」
「風邪ですって」
日誌から顔もあげずに江藤が教えてくれる。
「なるほど」
まあ、あれだけ接触すれば移るのも当然だろう。
「一条君じゃ仕方ない、・・・か」
後ろの出入り口付近へ顔を向けて江藤がそう言うと、物憂げに溜息を吐いた。
「あん?」
意味が判らず聞き返す。
何が仕方ないのだ?
「原田君、保健室へ言ってマスクを貰って来てくれる?」
江藤が顔をそむけたまま言う。
俺の問い返しは無視された。
「マスク・・・? ああ、インフルエンザ予防で皆に配るとか、そういう連絡でもあったのか?」
昨日、委員会があって決まったのだろうか。
「貰って来るのは1枚だけでいい。それをつけて教室へ戻ること。今日1日はマスク着用で過ごし、校内では絶対に外さないこと。これは学級閉鎖回避のための委員長命令」
「ああ、そういうこと・・・」
江藤には一条へ風邪を移したことがバレているらしい。
何をして伝染したかまではさすがに気付かれてないとは思うが。
っていうか、校内で絶対外すなって、弁当食うなって意味か、おい?
「さっさと行きなさい。だいたい、保健委員のアンタがそんなエチケットも守らないなんて、それが異常。自分の無神経さを深く反省し、今後の行動を改めなさい。大体、アンタのお見舞いをしてくれたクラスメイトが休む羽目になっているのに、どうしてそれぐらい気を付けられないの? 一条君は真面目で優しいからアンタに文句を言ったりはしないだろうけど・・・」
江藤の声が段々イライラしてきていた。
「いや、アイツは自業自得なんだが・・・」
わりと強引だし。
「何か言った?」
ヤバイ。
「な、何でもありません・・・了解であります、隊長! 自分はこれから、直ちにマスクを取って参ります」
俺はおずおずと後じさり、敬礼をして回れ右。
が、このふざけた態度が5ミリぐらいしかない江藤の導火線に点火してしまったのだろうか。
「待ちなさい原田君!」
「は、はいっ、隊長殿!」
立ち止って直立不動の姿勢をとる。
「ベッドの下・・・・気が付いた?」
俺の軍隊ごっこは軽くスルーされ、意外なほど優しい声で質問された。
が、意味がわからない。
「ベッドの下って・・・え、えーと???」
はて、隠していたエロDVDでも、昨日、江藤の足元に飛び出していたのだろうか?
一条にされていたときとは別の意味で心拍数が急速に跳ね上がる。
・・・もっとも、こちらの方が、比較無用なほどに馴染み深い焦りではあったが。
「やっぱりなんでもない。いいから、さっさと行って来て。あと1分でホームルーム始まるから」
なんじゃそりゃ。
っていうか、1分だと!?
「おまっ、早く言えよっ・・・・!」
俺はダッシュして教室を飛び出す。
階段ですれ違った担任に呼びとめられ、委員長命令だと理由を開示して見逃してもらった。にも拘わらず、戻ってみるとしっかり遅刻扱いにされていた。
理不尽だ。
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