西峰寺はうちから学園都市線で一駅の城西地区にある。
そして駅から30分以上歩くような場所だが、電車へは乗らず、遊歩道を突っ切って行けば15分ほどで到着する。
遊歩道の出口側には原田が住んでいる住宅街が広がり、そこから10分程度で参道に入る。
最近はイタリアンカフェなんかがオープンしてしまい、景観が破壊されて嘆かわしいが、お陰で人通りはすっかり増えて、このぶんだと年末年始の行事は随分と忙しくなりそうだ。
寺へ到着すると、伯父しかいなかった。
「いつも佳代子(かよこ)がすまないね・・・」
母の事で謝られると、息子としてなんだかむず痒い。
この日の晩はどうやら伯母が帰省中で、伯父と一緒に水炊きの準備を手伝い、こちらで夕食を摂ることにする。
その後、囲碁に付き合いながら「兄離れが出来ない妹」の悩みを語り合っているうちに深夜になってしまった。
結局、西峰寺へ泊ることにする。
明け方、一旦家へ着替えに戻り、学校へ着いてから、その日が原田の誕生日だと気が付いた。
帰り際、原田を捕まえて誕生日プレゼントの用意があることを打ち明け、ついでに翌日の予定、・・・万が一にも休みの予定があったりはしないかと確認する。
ここまで言っておけば、少々熱が出たぐらいで休むことはあるまい。
何しろ、自分にプレゼントが用意されているのだから・・・俺からの、初めての贈り物なのだ。
そして翌日。
念を押したにも拘らず、来てみると本人がいない。
風邪だという。
ついでに二葉時代同様に、ここでも俺と首席争いをしている一条が、城陽レベルの授業でこの日は簡単な化学式と古文の訳、得意の英文法を間違えていた。
明日は泰陽(たいよう)市で猛吹雪か、日照りによる砂漠化現象でも起きるのかもしれない。
それにしても、俺が誕生日プレゼントを仄めかしていたのに学校を休むとは、これはそうとう本人が熱でうなされている、ということなんじゃないだろうか?
熱が9度ぐらいまで上がってしまったのだろうか?
ひょっとしたら肺炎を起こしかけて苦しんでいるんじゃないだろうか?
心配になって見舞いへ行こうとしたところで。
「お兄ちゃん、ヘルシーモロヘイヤロールケーキなんて持ってどこへ行くの?」
玄関でまりあに見つかった。
「これは母さんの遣い物だ」
というわけで、二日連続で西峰寺へ行くことになってしまった。
まりあに見つかってしまってはどうしようもない。
これで西峰寺へ行かずに、原田の見舞いに行っていたとバレたりしたら、命の保障がない。
「またヘルシーモロヘイヤロールケーキなのかい?」
当然伯父には不思議な顔をされ、昨日のぶんが余っているからと、一緒に3つも食べることになってしまった。
糖分控えめ、繊維たっぷりのヘルシーモロヘイヤロールケーキ。
今後何があっても食べはしないと心に決めた。
あの料理教室は講師を替えた方がいいんじゃないか?
そしてこの日もまだ伯母は実家から帰っておらず、書き置きを残して出て行ったきりすでに5日ほど連絡がないという。
伯父が心配になり、迎えに行った方がいいのではないかという話で、ちょっと深刻に説得してしまった。
またもや朝帰りになり、近道のために遊歩道を突っ切っていると、城西高校の男子生徒が自殺をしようとしていたので、思わず止めに入る。
「なんだよ、余計なことすんなよ・・・お前を待ってるんじゃねえよ! ひょっとしててめぇも城陽のボンボンかよ、畜生めが! ふざけんな!」
などと、意味不明な言葉を発しながら、なぜか自殺志願者から派手に怒鳴り散らされた。
人形みたいに綺麗な顔をしている小柄な美少年だったが、口が相当悪い。
訳が判らなかったが、とりあえず放っておいても大丈夫そうなので、言われたとおりに放置してそのまま家路を急いだ。
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