カプチーノの間『うさぎ』第一部

翌日学校へ来なかった峰へ再びノートを届けるというので、江藤とともに峰の家へ行くことになった。
「いつからアンタ達そんなに峰君と仲良くなったわけ?」
江藤が不審がって聞いてくる。
「だってクラスの仲間じゃん。心配すんのは当然だろー、俺、保健委員だし。なぁ一条?」
「うん、そうだね」
お前はただの金魚の糞だけどな。
呼び鈴を押して玄関へ入ると、なんと峰の妹が出迎えてくれた。
いきなり来たーーーー!
どうやら学校から帰ったところらしく、清楚なジャンパースカートスタイルの制服姿である。
スカート丈がなんとも美しい。
見えている膝から下は学校指定っぽいグレーのタイツと、バックルが付いた黒のエナメル靴を履いている。
眩しすぎるぜ・・・。
ジャケットとブラウスにベスト、スカートと分かれている城陽と違い、この手の制服はきちんと着てこそ美しいのだ。
はて、この制服・・・最近どこかで見たような。
っていうか、俺が言えば変態にしか聞こえないこのアブナイ発言は確か・・・。
「お兄ちゃんは今、病院なんです。そろそろ帰ってくると思うんですが・・・あ、帰ってきたみたいです」
そう言うと妹ちゃんは俺たちの間をパタパタと走り抜けていった。
柔らかそうな肩まで届く巻き髪のツインテールが、まるでウサギのようにピョンピョウンと跳ねている。
「いいかげんに口閉じないと家の人に通報されるわよ」
江藤が言った。
うるさい、男のロマンに水差すない。
タクシーから降りた峰にウサギちゃんが飛びついた。
180センチはある峰の肩より全然低いウサギちゃん。
江藤じゃないけど本当に兄妹かと疑わしくなる。
ウサギちゃんが峰に両腕で抱きつきながらニコニコと何かを話しかけつつ、二人はこちらへ歩いてきた。
だんだん面白くなくなってくる。
「玄関先ですまんかったな。入ってくれ」
峰が二言以上喋った。
ウサギちゃんこと、まりあちゃんが紅茶の準備をしてくれる。
またあの18金ティースプーンが出てきて江藤が喜んだ。
ただし峰のカップにだけは陶器のスプーンが付いていた。
これまた誰かの作品なのだろうか、ちょっと一点ものっぽいデザインだ。
昨日は入れなかった砂糖を今日は入れて峰がカップをかき混ぜる。
疲れてんのかな?
今日はお母さんがクラス会で遅くなるそうだ。
峰の親は自営業のため、基本的にどちらも自宅にいるのが普通のはずだが、父親は仕事で、母親は余暇を楽しむためになんだかんだと外出が多く、顔を合わすことはあまりないらしい。
家のこともたいてい兄妹でこなしているのだそうだ。
昨日訪れたときに感じたほど絵に描いたような理想の家庭というわけでもなさそうなだが、さりとてとてもDVと縁がある家にもやはり見えてこない。
ではあの傷は、やっぱりただの喧嘩なのだろうか。
それにムカデは・・・。
まりあちゃんは峰のソファへ座り込むと、また峰にべったりと抱きついた。
う〜ん・・・とりあえずこの二人はちょっと危ない兄妹に見えてきた。
しかし峰はよく見ると、そんなまりあちゃんを止めるでもなく引き寄せるでもなく、放っておいているのだ。
それが却ってよそよそしい印象を受ける。
まあ俺たちがいるわけだし、気まずいのは気まずいだろう。
帰り際、江藤が言った。
「峰君って妹さん二人いるの?」
「俺に聞くなよ。・・・つかなんで?」
「だって・・・」
江藤が不思議そうな目をした。
「昨日いた女の子は?」
「は?」
「原田君、教えてくれたじゃない、たぶん峰君の妹さんがいるって、窓を指さして・・・」
確かに教えた。
でも俺が教えたのは、俺たちがいた応接間の窓から手を振っていた、あのまりあちゃんのことだ。
江藤が続ける。
「昨日2階の窓際に立っていたカチューシャの女の子とあの子、とても同じ子には見えなかったんだけど」
カチューシャ・・・? 
確かにまりあちゃんは昨日、そんなものをしているようには見えなかったわけで・・・
「つか、お前今2階の窓っつったか?」
「うん、2階の窓。あの子と同じ二葉の制服着てたわよ」
「二葉・・・」
そうか! どこかで見たと思ったら、昨日のニュースじゃねえか! 


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