カプチーノの間『うさぎ』第一部

翌朝、昇降口が大騒ぎになっていた。
「やっちまったな・・・」
「そうだね、やっちゃったね」
2年の下駄箱に書かれた”死ね”のスプレー文字。
他ならぬ峰へ当てたメッセージだった。
しかしよくもまあ、こんなマメなこと・・・。
俺と一条は呆然とその場所を眺めていた。
そこへ渦中の人物登場。
人垣を掻き分けて自分の上履きを片方だけ取ると、峰は無言で一つ一つ丁寧に画鋲を取り除いていった。
「仕方ねーな」
俺ももう片方を手にとって手伝う。
「頼んでないぞ」
ちょっとびっくりした峰の顔に、妙な勝利感を味わった。
画鋲は上履きの裏側から隙間なく刺されていた。
しかも普通の画鋲では貫通しないため、わざわざ針部分が長いタイプのものを使用してあった。
持ち手が木製になっている。
高かっただろうに。
「昨日まりあちゃんと会ったぞ」
「そうか」
「ここから帰る途中だ」
「そうか」
・・・他に言うことねーのかよ。
とり終わる頃には峰の指先が赤くなっていた。
一瞬出血かと思うほどだっただが、「金属アレルギーだ」とだけ応えて峰は先に教室へ向かった。
たったあれだけのことで、アレルギーだと?
しかも持ち手は木製だったのに・・・。
ここまで考えて何かがひかかった。
その昼、やはり江藤に呼ばれて道場で弁当を食う。
教室へ戻ってみると峰がいなくなっていた。
俺の代わりに保健室へ付き添っていたらしい一条に、峰が早退すると教えられ、俺は峰の鞄を取ると保健室へ向かった。
そして教室を出るまでもなく、峰が倒れた原因を知った。
「お前いいかげんにしろよな」
鞄を渡しながら峰に言う。
「あ、弁当・・・」
変化に気づいた峰が言った。
顔が真っ青だった。
何度も吐いたのだろう。
「捨てたよ。臭いから弁当箱も洗っといた。あんなもん食ったら腹壊すに決まってんだろ! 何やってんだよ」
「食わなかったらもっと酷い目に遭う。・・・世話かけたな」
言って峰が立ち上がり、俺から鞄を受け取って帰ろうとした。
「ちょっと待てよ!」
俺も一緒に学校を出る。
帰る道すがら俺は峰からむりやり話を聞きだした。
峰自身のこと。そしてまりあちゃんのこと。
峰はポツリポツリとだが、あまり大きくない声できちんと話を始めた。


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