翌朝、昇降口が大騒ぎになっていた。
「やっちまったな・・・」
「そうだね、やっちゃったね」
2年の下駄箱に書かれた”死ね”のスプレー文字。
他ならぬ峰へ当てたメッセージだった。
しかしよくもまあ、こんなマメなこと・・・。
俺と一条は呆然とその場所を眺めていた。
そこへ渦中の人物登場。
人垣を掻き分けて自分の上履きを片方だけ取ると、峰は無言で一つ一つ丁寧に画鋲を取り除いていった。
「仕方ねーな」
俺ももう片方を手にとって手伝う。
「頼んでないぞ」
ちょっとびっくりした峰の顔に、妙な勝利感を味わった。
画鋲は上履きの裏側から隙間なく刺されていた。
しかも普通の画鋲では貫通しないため、わざわざ針部分が長いタイプのものを使用してあった。
持ち手が木製になっている。
高かっただろうに。
「昨日まりあちゃんと会ったぞ」
「そうか」
「ここから帰る途中だ」
「そうか」
・・・他に言うことねーのかよ。
とり終わる頃には峰の指先が赤くなっていた。
一瞬出血かと思うほどだっただが、「金属アレルギーだ」とだけ応えて峰は先に教室へ向かった。
たったあれだけのことで、アレルギーだと?
しかも持ち手は木製だったのに・・・。
ここまで考えて何かがひかかった。
その昼、やはり江藤に呼ばれて道場で弁当を食う。
教室へ戻ってみると峰がいなくなっていた。
俺の代わりに保健室へ付き添っていたらしい一条に、峰が早退すると教えられ、俺は峰の鞄を取ると保健室へ向かった。
そして教室を出るまでもなく、峰が倒れた原因を知った。
「お前いいかげんにしろよな」
鞄を渡しながら峰に言う。
「あ、弁当・・・」
変化に気づいた峰が言った。
顔が真っ青だった。
何度も吐いたのだろう。
「捨てたよ。臭いから弁当箱も洗っといた。あんなもん食ったら腹壊すに決まってんだろ! 何やってんだよ」
「食わなかったらもっと酷い目に遭う。・・・世話かけたな」
言って峰が立ち上がり、俺から鞄を受け取って帰ろうとした。
「ちょっと待てよ!」
俺も一緒に学校を出る。
帰る道すがら俺は峰からむりやり話を聞きだした。
峰自身のこと。そしてまりあちゃんのこと。
峰はポツリポツリとだが、あまり大きくない声できちんと話を始めた。
次へ>>
『城陽学院シリーズPart1』へ戻る