<シーン3:修羅場る生徒会執行部 其の弐>


「てな話を書いて頂戴。」
「おまえ・・・何のプレーだ、今のは」
「BLをやりたいのよ。でもうちのサークルは見ての通り、絵師と毎回現国赤点の漫画家しかいないでしょ?」
「はぁ・・・どうもすいません」
上杉が悪びれもせずに、後頭部を掻きながら苦笑した。
「だからと言って、さっきの恥ずかしい話は何だ。なぜ俺が生徒会室でこんな辱めを受けている」
文芸部の1年生部員とセットで実名を出されて、目の前で架空のロマンスを滔々と語って聞かされた石田部長は、せっかくの端正な顔立ちを耳まで紅潮させたきり、一向に赤面が収まらない。
会長がさらに目を爛々と輝かせて野心を述べる。
「小説を書きなさい。あらすじは私が考える。キミはそれを文章にするだけでいい。」
「俺に・・・あ、あんな恥ずかしい話を書けというのか・・・?」
「あら、見くびられたものね。私のエロティシズムはあんな生ぬるいものじゃないわよ。」
「断る!」
「いいのかしら、そんなことを言って。文芸部の子達は残念がることでしょうね。せっかく今話題のワードプロセッサーが手に入るチャンスだったというのに。」
「お前、俺を脅すのか?」
「物騒なことを言うものじゃないわ。私は別に、どっちだっていいのよ? キミに提案をしているだけ。純粋なビジネスと思えばいい。」
「どういうことだ?」
「キミがイエスと言ってくれたら、私は条件付きで10万円、教頭に相談するまでもなく用立ててあげるって言っているのよ。」
「お前にそんな権限があるわけないだろ」
「だからビジネスだと言っているでしょう。安心なさい。権限はなくても販売ルートはある。もちろん、キミの文章と私のイラストがそれだけの売上を見込めたらの話だけれど。どう、乗ってみる気はない?」
「おい、それは部費じゃないんじゃないのか?」
「お金はお金。ちなみに『カフェシリーズ』愛読者の私としては、この話、十分上手くやってのける自信があるのだけれど。」
『カフェシリーズ』とは、生徒会新聞に不定期連載している石田部長の読み切り小説のことで、小さな喫茶店を舞台に毎回違う登場人物が物語を繰り広げる。
少女漫画のような甘酸っぱい恋愛エピソードが多く、実は絶大な人気を誇っているコーナーだ。
定期連載してくれというリクエストも多い。
「あんなベタな内容で、そうそう上手く行くかね・・・」
「それを10万売り上げる文章に仕立て上げられるかどうかは、キミ次第じゃないの。」
「せめて男女じゃダメなのか?」
「副部長の毛利氏限定なら相手役の交換申請を受けてもいい。」
「ああ、それアリですね! 可愛らしい鍋島君もいいけど、強気眼鏡キャラの毛利先輩とくんずほぐれつ・・・ああ、萌えますよ〜」
上杉が醜く悶えた。
そして、どっちが受けだと謎のキーワードで美術部員達も盛り上がる。
「俺は男女と言ったんだが・・・」
「BLは固定。・・・どうするの、毛利君にする?」
美術部員たちの間からは、ここには書けないような用語さえ飛び交っていたが、敢えて聞こえない振りを装った石田部長に、僕はちょっとだけ尊敬の念とジェラシーを感じた。
これが大人の余裕というヤツなのだろう。
悔しいけれど、僕にはたぶん、まだ真似できない・・・。
「鍋島にしてくれ・・・」
「ちなみに本気で10万狙うなら、性描写は欠かせないから宜しく。」
「断固断る!」
「商談成立。」
「人の話を聞け」
「条件付きで予算前渡しよ。その足で電気屋に直行しても構わない。」
「条件を言え・・・」



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