<シーン4:文芸部の夏合宿> 夏休みの合宿である。 城西高等学校は学園都市線の城西駅から南へ徒歩30分。
合宿といっても文芸部の場合は、二学期早々に発行する夏季特大号の内容を決めたり、1学期を振り返り、二学期の活動方針について話し合ったりするぐらいで、どちらかというと俺達1年生が部に溶け込むための親睦目的という色合いが強いのだそうだ。
合宿は一泊二日で、部室も兼ねている図書室と武道館を使用。
武道館は単なる就寝場所だ。
うちのような公立校の場合、部費が出なくて合宿は学校でというケースは多く、就寝場所というと体育館が相場なのだが、せめて畳の上がいいからと部長が学校にかけあってくれて今年は武道館が使えるようになったらしい。
そもそも8人しか部員がいないのに、だだっ広い体育館に寝袋を並べるのは想像しただけで気味が悪い。
できれば茶道室が理想だったのだが、障子を破られても困るからと、それは却下されたそうだ。
辺りには田圃や畑が多く、体育館の裏は、そこから東側に向けて、国立公園である広大な国有林が広がり、四季折々の見事な自然を織りなしている。
国有林を挟んでその向こうには、城陽学院高等学校という名の授業料だけはバカ高い私立高校があるが、偏差値はうちといい勝負だ。
入学当時からの付き合いである武田均が以前、あんなバカ高校へ行くために親に大金を積ませる奴は生きてて恥ずかしいよなあ・・・などと軽口を叩いたが、彼も含めて入学も出来ないくせに偏差値だけで滑り止めに城陽を受験していた者が多いうちの学生がそれを言うのは自虐行為である。
もっともそんな会話をしていたのは、城陽の授業料を払える家が、それだけで社会の勝ち組だということも知らない、初な頃の俺達だ。
世の中、金と人脈でなんとかなってしまう人種がいるのである。
武田はクラスメイトでもある。
家は学園都市線の臨海公園駅近くに広がっている住宅街で、俺も駅近くのレンタルレコード屋へ寄りがてら、放課後よく遊びに行く。
友達の中では唯一CDプレーヤーを持っているのも武田で、CDでしか置いていないアルバムを借りてそのまま彼の家へ行き、カセットテープにダビングしてもらうことも少なくない。
しかし俺と武田の音楽趣味は微妙に違う。
洋楽派という点では一致しているが、俺はロック中心。
武田はハードロックやヘヴィメタル中心で、せいぜい重なっている部分はボンジョヴィ、デフレパード、ヨーロッパあたりまでである。
そんな武田は、ときおり『HITOSHI’S CHOICE』なる洗脳テープを編集しては、俺を武田の世界へ引き込む企みを持っている。
46分におよそ10曲前後が録音されたこのテープは、現在VOL.11まで制作されており、8割方がビルボードのヒットチャートを無視した内容だ。
最近は芸大に通っている武田の兄貴が2台目のビデオデッキを買った為、ビデオの編集が可能になったらしく、さっそく『HITOSHI’S CHOICE』のVHSバージョンの編集に取り掛かっているらしい。
俺の家は国有林近くの住宅地で、学校までは自転車である。
最寄駅は城西駅。
駅で武田を拾って、二人乗りで学校へ行くのがいつものパターンである。
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