<シーン7:文芸部の反省会>


ひとまずワープロは電源が切られ、次に1学期中の活動について反省会及び、2学期の活動方針について皆で話し合う。
毛利副部長より出席率について報告があり、3年の直江勇人、2年の伊達のぼるの二名が、それぞれ休みが多いと名指しで注意をされた。
バイトや習い事で休みがちな二人だった。
つづいて毎月発行される文集について、発行部数に対し在庫が5ヶ月連続で50パーセント以上残っているため、検討の余地があるという話になった。
「ちょっといいですか?」
武田が手をあげた。
嫌な予感がする。
「なんだ武田、言ってみろ」
毛利先輩が発言を促した。
「検討の余地って、内容についてですか? それとも発行部数を減らすって話ですか?」
「両方あり得るな」
「実はここへ来るときに鍋島とも言ってたんですけど、新しい文集を作ってみたらどうかと思うんです」
「そうなのか、鍋島?」
石田先輩に確認されて返答に困る・・・が、嘘ではないので無言で頷き、そのまま俯いた。
賛同はしていないが、話は確かにした。
「ただでさえ在庫が余ってるのに、新しい文集は可笑しいんじゃない?」
島津先輩が言った。
もっともだろう。
「発想の転換ですよ。文集が余ってるってことは、魅力がないからでしょ?」
ちょっ、おまっ・・・!
さすがに止めるべきかと思い顔を上げたが、意外なことに全員が真面目な顔をして武田の話を聞いていて、却って驚く。
「確かにね・・・内容にまとまりがないし、製本はコピー。表紙絵や挿絵は美術部や生徒会の絵師達に手伝ってもらってるけど、これといった魅力を挙げろと言われても困るかもね」
あたしの詩がつまらないと言われるのは癪に障るけど、と呟きつつ島津先輩は、結果として武田の意見に同意した。
「装丁を変えてみたらどうだろう、コピーからオフセットに変更するとかさ」
「すでにワープロ買ったんですよ。現状で半分以上が捌けてない状態で、そんな費用出してもらうのは難しいんじゃないですか」
直江先輩の意見は、2年の北条高明に否定される。
「あの、今までの文集って何部印刷してたんですか?」
「100部だ」
俺の質問には毛利先輩が答えてくれた。
ということは、良くて需要は50部。
大量印刷で安くなるオフセット印刷への変更は、かなり難しいだろう。
「そうよ、文字がワープロになったぶん、前よりは見栄えが良くなるわけだから、今度からはもっと捌けるんじゃないですか?」
「多少は見込めるでしょうね。でも・・・やはり内容を検討していかないと、それほど違いはないと思うわ」
島津先輩の発言に、伊達先輩がおっとりと意見する。
ワープロ導入については、元々、石田先輩たち3年生の間から出た話で、理由も島津先輩が言ったとおり見栄えの問題だった。
というのも、1学期の期末テスト直前に、石田部長が持ってきた城陽の文芸部の文集が、あまりに美しすぎて、完成度の違いに皆がショックを受けたのだ。
金に糸目はつけない城陽が、前頁カラーの豪華装丁に加え、タイトル文字が金箔張りというのは逆立ちしても真似ができないからともかくとして、問題は中身だ。
活字が規則正しく並ぶその美しさは、悪筆が多い文芸部にとって、羨望の眼差しによる注目の的だったのだ。
正直、偏差値が変わらない城陽の文章も、書いていることは大して差がない。
しかし城陽ではその文集を毎月300部印刷しており、それでいて在庫も殆ど残らないのだという。
その最たる違いは活字にあるはずだと、なぜかこの時の俺達は全員一致で結論に達したのだった。
「俺達もワープロ欲しいよな・・・」
直江先輩が言ったその一言に反対する部員はいなかった。
「すいません、いいですか? ちょっとその、”文集”の中身からは、一旦離れてもらえませんかね」
武田が再び口を挟む。
開け放した窓からは、吹奏楽部の『威風堂々』を伴奏に絶え間なく聞こえてくる蝉の合唱。
夏休み初日の合宿は、開始からそろそろ1時間半が経過していた。
予定ではあと1時間ほどで昼休憩のはずだが、まだ何も話は決まっていない。
「武田は小説も詩も書かないのに文集をもう1冊出してまで、何をやりたいんだ?」
毛利先輩が眼鏡のフレームを押しあげながら、皮肉混じりの口調で話を促した。
そう、現状武田は名簿に名前を載せているだけだ。
つまり文芸部が「部」を保つための頭数ぐらいしか、彼は役目を果たしていない。
俺が入部を希望したとき、たまたま付いてきた武田は、石田部長に誘われるまま躊躇いもなく一緒に入部した。
そんな武田だったが、なぜかマメに部活に参加している。
何もしないで、いつもただ座って見ているだけなのだが・・・。
「雑誌、作りませんか?」
武田が真顔で言った意見に、みんなは茫然とした。



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